20年11月、世界に先駆けて治験での有効性を発表したワクチンは、ファイザーとビオンテックが共同開発したものだ。ビオンテックはドイツのバイオベンチャーで、トルコ系移民と移民2世の夫婦が設立して経営している。CEOのウグル・サヒンは4歳でドイツに移住した。妻で医療開発責任者のオズレム・トゥレシは移民2世。免疫学が専門の2人は大学時代に知り合い、がんワクチンの開発を進めてきた。08年に地方都市のマインツにビオンテックを設立。13年にハンガリー人の生化学者カリコー・カタリン博士を上級副社長に迎えた。彼女は、今回のワクチン開発でノーベル賞候補と注目される1人だ。

mRNAワクチンの技術を培った同社は、20年1月にコロナワクチンの研究を始め、3月にファイザーと契約している。物理学者のメルケル首相も、同じ科学者としてふたりを讃えた。トルコ系移民のベンチャー企業が、世界に貢献した意味は大きい。

なぜドイツでは移民が定着したのか

ドイツは15年に、100万人以上のシリア、アフガン、イラクなどの難民・移民を保護して世界から注目された。メルケル首相は「人道的な措置」と説明したが、国民の負担が増えるから反対の声は多かった。まだEU離脱前だったイギリスなども、ドイツの難民対策はやりすぎだと非難した。

これもドイツだからできたことだ。受け入れた難民は各自治体に振り分け、ドイツ人として暮らしていくための教育プログラムを受けさせる。ドイツ語学習には400時間から900時間をかけ、行政手続きや住居探し、仕事探しなどのカリキュラムもある。難民自身の費用負担もあるが、かなりの税金を投入している。難民にそれほど手厚く支援するのだから、移民が集まるのも当然だろう。放っておけば日本と同じで労働人口は急減する。それを防ぐ取り組みを人と金をかけて長期にわたってやっている。「ドイツのための選択肢(AfD)」などの右派組織がこれを頑強に阻止しようとしているが、メルケルの与党は動じていない。

日本には、ドイツ並みの長期的な計画を立て、リーダーシップをふるう人材がいない。移民政策など持ち出せば、自民党の支持団体である日本会議にぶっ叩かれるのがオチだ。

「日本人は外国人に偏見がない」という人もいるが、そう思っているところに問題の根深さがある。スポーツで、大坂なおみ、八村塁などが海外で活躍すると歓喜する一方、名古屋場所で全勝優勝した白鵬は「横綱の品格がない」「魂胆がずるい」と叩く。銅像が建っていいほど実績があるのに、相撲利権をむさぼる相撲協会とNHKがいじめるのはおかしい。

外国人を受け入れておきながら、日本人が負かされると攻撃するというメンタリティは、早く改めないと優秀な外国人がこなくなる。