日本の金融市場オープン化も急務

金融市場の整備も重要です。トランプ政権は対中政策の一環として、中国の通信会社であるチャイナテレコムやチャイナモバイルなど3社の米国上場を廃止させましたが、これは本当に愚かな政策だと筆者は考えます。

中国の主力企業がわざわざ米国への上場を望んだのは、中国の資本市場が整備されておらず、米国市場に頼らなければ十分な資金調達ができないからです。米国で資金を調達するという流れが確立した後で、それをひっくり返すのは容易なことではありません。これをうまく継続できれば中国企業は米国の資本市場への依存が続きますから、資金源というもっとも重要な部分を米国が握ることができます。

しかも外国企業を上場させることは、資金の還流という意味でも重要です。大量の輸入によって海外に流出したドルが余剰となった場合、通貨価値の毀損を招くリスクがあります。しかし米国にたくさんの企業が上場していれば、海外に流出したドルは、それらの企業への投資という形で米国に戻ってくるので、ドルの価値を維持できます。

クリミア戦争の際、英国は敵国であるロシアの資金調達を黙認しました(※)が、対立する国に自国の金融システムを使わせるというのは、極めて高度な国家戦略であり、発達した金融市場を持っている国だけの特権です。

日本の資本市場は米国とは比較にはなりませんが、十分にオープン化が進んでいない中国と比較すれば、まだまだアドバンテージがあります。日本の資本市場をさらにオープンにして、中国企業が日本で資金調達を行う事例を増やすことができれば、確実に外交の武器として使うことができるでしょう。

東京証券取引所
写真=iStock.com/GOTO_TOKYO
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※クリミア戦争(1853~1856年)は、ロシアの南下政策をめぐってロシアとトルコの間で起こった戦争。ロシアは戦争にかかる資金を自国の市場で調達できず、トルコを支援する敵国である英国で調達するしかなかった。当時の英国は基軸通貨ポンドを持ち、世界の金融市場を支配しており、いつでもロシアの資金源を断てる強い立場にあった。

外国企業を締め出すのは愚の骨頂

かつての日本は米国と同様、オープンな金融市場の構築を目指していましたが、安倍政権以降は、外国企業の上場は抑制する方向性となっており、市場はむしろ内向きになっています。国内世論も外国企業を上場させるのはケシカランといった単純で幼稚な意見が増えており、金融市場を武器に外交を展開するといった発想からは遠ざかりつつあります。このような状況では中国を資金面で牽制するということができなくなりますから、日本にとっては大きなマイナスとなります。

中国との距離を保ちたいのであれば、消費主導型経済へのシフトと同時並行で金融市場のオープン化を進め、日本市場と関係を持たないと企業活動を維持できない中国企業を増やしていかなければなりません。

ちなみにスイスやアイルランドなど、高度な金融サービスが存在する国は、極めて付加価値の高い製造業も活発になる傾向が顕著です。つまり、金融市場と高度な製造業は完全に両立できる存在です。国民生活の多くは消費主導型経済で支え、高度な金融市場と高付加価値製造業を外交的な武器として使うことによって、中国と距離を取りつつ、日本独自の経済活動を展開することが可能となるのです。