経済活動を中国にコントロールされてしまう

ここでは人民元経済圏に取り込まれるという穏やかな表現にしましたが、現実はもっと厳しいものとなるでしょう。日本が人民元経済圏に取り込まれてしまった場合、日本は経済活動の多くを中国にコントロールされてしまいますから、場合によっては中国の属国のような地位に転落してしまう可能性も否定できないのです。

現時点では中国との取引についても、人民元と円の間にドルが入り込むケースがほとんどですが、中国は自国通貨である人民元覇権の確立を目指しています。ゆっくりとしたペースにはなるでしょうが、日中の貿易がさらに拡大すれば、日本円と人民元の直接取引の比率が増え、知らないうちに日本経済は人民元経済圏に引きずり込まれていきます。加えていうと、いくら日本の製品が人気だといっても、日本は売る側で中国は買う側となり、立場は圧倒的に先方が有利ですから、中国を顧客にする以上、様々な面で日本は譲歩を強いられるでしょう。

一部の論者は日本にしか作れない製品を提供すれば、立場は弱くならないと主張すると思いますが、これはビジネスの現場を知らない人の願望に過ぎません。

アップルのiPhoneには日本メーカーが製造した部品がたくさん搭載されており、ある意味では日本が存在しなければアップルはビジネスを続けることができません。しかし現実に日本メーカーは、アップルから猛烈な値引き要請を受けており、中にはほとんど利益を出せていない企業もあります。

 アップルストア
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アップルは常に複数の調達先を競わせ、主導権を確保できるよう画策していますし、1社しか供給先がない場合には、競合になり得る企業に対して巨額の資金援助まで行って競争状態を作り出そうとします。実際、アップルは液晶の調達をめぐってシャープとジャパンディスプレイを激しく競わせ、ジャパンディスプレイには工場の建設資金まで提供していました。双方とも果てしない値引き合戦を余儀なくされ、体力を消耗してしまったことは業界では有名な話です。

このようにモノを買う側というのは圧倒的に有利な立場であり、質の高い製品を持っていれば大丈夫というのは幻想に過ぎません。中国を顧客として製造業を続けていくのであれば、中国に対する発言力は大幅に低下すると考えてよいでしょう。

消費主導型に移行すれば中国と距離が保てる

中国経済圏に取り込まれることを回避したいという場合には、輸出によって経済を成り立たせる産業構造から完全に脱却する必要があります。

日本はすでにGDPの6割近くが個人消費となっており、徐々に消費主導型経済にシフトしています。これから日本は人口が急激に減っていきますが、それでも当面は1億人の消費市場が国内に存在しているわけですから、これをフル活用すれば、国内の消費で十分に経済を回すことができます。輸出に頼る必要がなければ、対外的に譲歩を迫られる材料が大幅に減りますから、中国に対しても一定の距離を確保することができるでしょう。

日本は完全に消費主導型経済にシフトする必要があります。これが実現できれば、基本的な経済活動は自国内で完結しますから、中国との利害関係を最小限に食い止めることができ、結果的に中国との距離も確保できるでしょう。

消費主導型経済を実現するためには、国内の産業構造の転換をより積極的に進めていく必要がありますが、消費主導型経済といっても製造業の輸出をすべてなくす必要はありません。世界屈指の消費大国である米国にも数多くの輸出産業が存在します。しかしながら、消費主導型経済においては、大量生産を基本とした付加価値の低い製造業は成立しにくくなります。価格交渉などで可能な限り強い立場を維持できるよう、付加価値の高い製造業だけを残すよう政策誘導を行う必要があります。

製造業である以上、中国企業を顧客にする必要があるのは同じですが、付加価値が高く、他に製造する国が少ない製品であれば、買い手有利という構造は変えられないにせよ、日本が過度な妥協を強いられる場面を減らすことができます。

どうしても高付加価値型へのシフトが進められない業界については、可能な限り国内向けのサービス産業への転換を促し、労働者のスキルアップや転職支援といった策を実施する必要があるでしょう。

中国も消費主導型経済へのシフトを進めているとはいえ、日本と同様、輸出産業がなくなってしまうわけではありません。日本が輸入する製品については、中国にとってみれば日本がお客さんということになりますから、この金額をできるだけ大きくすることが中国からの過度な干渉を防ぐ防波堤となります。