「ゲームチェンジャー」としてのワクチン
6月18日現在、医療従事者で2回目の接種を終えた人は432万人。1回目を終えた人は549万人に達した。当初医療従事者は480万人とみられていたから、ほぼ接種は完了しつつあるということだろう。医療従事者を除く高齢者などの接種も、1回目を終えた人は6月20日時点で1694万人に達した。人口に占める1回目の接種割合は両者を合わせると17.6%に達している。オリンピック開催までには接種率は大幅に上昇することが期待できる。
ワクチン接種が進めば、感染者数はもとより、重症化する人の数が大幅に減少するとみられている。仮に多少、新規感染者が増えたとしても、重症患者が減れば医療機関の病床占有率は上がらず、医療の逼迫は避けられる。再び緊急事態宣言を出す事態に陥ることを回避できるわけだ。菅首相が口にするようにワクチンが「ゲームチェンジャー」になるとみているのだ。
実際、ワクチン接種が進んだことで、悪化していた菅内閣への支持率も底打ちの気配が出ている。前述の朝日新聞の調査では、「ワクチン接種に関する政府の取り組み」の評価について、「大いに評価する」とした人は6%と1カ月前の5%とほぼ変わらなかったが、「ある程度評価する」とした人は42%から54%に増加。「あまり評価しない」とした人は39%から30%に、「まったく評価しない」とした人は13%から8%に減少した。この傾向は他の世論調査にも共通しており、まさに負け試合を挽回させる「ゲームチェンジャー」の役割を果たしている。
新規感染者数に増加の兆しが出てきた
しかし、「無観客」に比べて「有観客」で開催した場合の感染リスクが高くなることは自明だ。組織員会は観客に会場に来て観戦だけして帰路飲食などをしないように求める「直行直帰」を求めるガイドラインをまとめているが、スポンサーとの関係で会場での飲酒を解禁するという話が早速流れた。会場の1万人という上限も、大会関係者やスポンサーの招待者は含まれず別枠だという話のようだ。これでは専門家が懸念するように1日数万人から数十万人の人流増加が起きるのはほぼ確実な情勢だ。
東京では6月に入ると、緊急事態宣言が発出されているにもかかわらず人流の増加が顕著になった。その「結果」が感染者数にも表れ始めている。6月12日の土曜日、都内で確認された新規感染者は467人と前の週の土曜日に比べて31人増加した。新規感染者数が前週の同じ曜日を上回ったのは30日ぶりのことだった。その後、前週の同じ曜日の感染者数を上回る日が出始め、16日からは3日連続、20日からも連続で上回る日が続いた。明らかに新規感染者数の減少傾向にストップがかかり、増加の兆しが出てきた、そんな時に緊急事態宣言の解除と、オリンピックの有観客開催を決めたのである。