なぜ糖尿病は治らない病気とされているのか。医師の水野雅登さんは「国や専門家が作った糖尿病の標準治療のガイドラインに原因がある」という――。

※本稿は、水野雅登『糖尿病の真実』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

リビングで血糖値検査を行うシニア女性
写真=iStock.com/vgajic
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ガイドラインを守った治療をした結果、悪化した

私が医師になるべく研修を終え、ようやく外来診療を一人で始めた頃、「あること」を実感するようになりました。それは、糖尿病の患者さんだけ、かなりのスピードで悪化していくということです。

当時の私は、「ガイドライン至上主義」といえるほど、治療のガイドラインの内容を守っていました。そして、その悪化していった患者さんたちも、その内容に沿った運動や食事をしていました。それなのに、改善するどころか、どんどん悪化していったのです。

私の実感は、実際に数字にはっきりと表れています。現代は日本国内の、糖尿病が疑われる人と可能性を否定できない人を含めると、2000万人にもなる時代です(平成30年版厚生労働白書より)。1997年には1370万人でしたので、いかに急激に増えているかが、よくわかります。

そして、糖尿病と診断されたときに、患者さんから最もよく受ける質問が「一生、薬をやめられないんですよね?」です。これだけ糖尿病患者や、その可能性がある方が増えている状況なので、身近に糖尿病の人がいて、ずっと薬を飲み続けているのを見聞きしてきたのでしょう。

「薬をやめられない」ということは、「治らない」ということです。このため、よく「糖尿病は治らない病気」「一生付き合っていく病気」といわれます。それはその通りで、現代の標準治療では治らないし、薬もほとんどやめられません。とはいえ、「落ち着いた状態にする」ことも非常に大切なので、従来の標準治療が果たす役割は大きいものがあります。また、糖尿病が悪化したときの救急対応でいえば、新旧の治療法はあまり違いがありません。

つまり、糖尿病に関する従来の標準治療は、急性期に関しては非常に優れた治療法だということです。逆に、慢性期や予防に関しては、非常に限定された効果であるといえます。