※本稿は、水野雅登『糖尿病の真実』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
ガイドラインを守った治療をした結果、悪化した
私が医師になるべく研修を終え、ようやく外来診療を一人で始めた頃、「あること」を実感するようになりました。それは、糖尿病の患者さんだけ、かなりのスピードで悪化していくということです。
当時の私は、「ガイドライン至上主義」といえるほど、治療のガイドラインの内容を守っていました。そして、その悪化していった患者さんたちも、その内容に沿った運動や食事をしていました。それなのに、改善するどころか、どんどん悪化していったのです。
私の実感は、実際に数字にはっきりと表れています。現代は日本国内の、糖尿病が疑われる人と可能性を否定できない人を含めると、2000万人にもなる時代です(平成30年版厚生労働白書より)。1997年には1370万人でしたので、いかに急激に増えているかが、よくわかります。
そして、糖尿病と診断されたときに、患者さんから最もよく受ける質問が「一生、薬をやめられないんですよね?」です。これだけ糖尿病患者や、その可能性がある方が増えている状況なので、身近に糖尿病の人がいて、ずっと薬を飲み続けているのを見聞きしてきたのでしょう。
「薬をやめられない」ということは、「治らない」ということです。このため、よく「糖尿病は治らない病気」「一生付き合っていく病気」といわれます。それはその通りで、現代の標準治療では治らないし、薬もほとんどやめられません。とはいえ、「落ち着いた状態にする」ことも非常に大切なので、従来の標準治療が果たす役割は大きいものがあります。また、糖尿病が悪化したときの救急対応でいえば、新旧の治療法はあまり違いがありません。
つまり、糖尿病に関する従来の標準治療は、急性期に関しては非常に優れた治療法だということです。逆に、慢性期や予防に関しては、非常に限定された効果であるといえます。