いつ読み返しても
異なる発見や学びがある古典的名著の逸品
身の回りのことや事件についていろいろと書かれているという意味で、『モンテーニュ随想録』は、エッセイの祖といわれる古典です。しかし、僕はどちらかというと、モラリストが世の中の人に自分の考えを告げている本のように捉えています。
モンテーニュを読むと、正義や公正を学ぶ思いがするのです。どこを拾い読みしても、何度読んでみても、その都度異なる読後感を得られる。彼が提示した根源的な問いやテーマは、現代のいろいろな場面に通じるところがあると感じます。
日本の古典では、僕は『方丈記』はなかなか屈折した思いを感じさせる本だと思っています。鴨長明という人は、世の中を恨み、小さな家を建ててそこに住んだ。それが一番シックなやり方だと彼は言っているけれど、実際はそう思ってはいないのではないかと勘ぐってしまう妙な本です(笑)。岩波文庫の『方丈記』には「伝鴨長明」として、彼が書いたと伝えられる原文も載せられています。その字を見ると、並大抵の精神ではないと感じます。加えて、たいへん現代的で切れ味の鋭い文章を書いている。
『徒然草』についても、いろいろな解釈があると思うけれど、表面的な読み方と、そうでない読み方があるような気がしてなりません。身の回りのこと、世の中のことを草庵に住みながら考えて書いているわけですが、本音は違うのではないかと(笑)。しかし、そのように思わせる本というのもまた、文学性というのか、作品性なのでしょう。漠然と語っているとはいえ、それを読ませて飽きさせない。日本の随筆の嚆矢といわれるのも間違いではないと思います。