選手たちが女性と親しくなれる機会はほぼない
箱根駅伝で活躍する選手は女性ファンも少なくないが、選手たちが日々の生活で女性と親しくなれる機会はほぼない。食事や門限があると、女性と食事に行く機会はほとんどなく、合コンを行うのも簡単ではないからだ。最近はSNSを通じて、女性と交流する選手もいるようだが、駒大は選手のSNSを禁じている。しかも、コロナ禍で外出する機会は大幅に減った。彼女がほしいと思っている選手がネットで出会いを求めるのは、ある意味、自然な流れといえるかもしれない。
石川が17歳の少女に出会ってしまったのは不運な面もある。マッチングアプリは18歳未満禁止となっており、石川が少女を「18歳以上」だと思い込んでいたのは仕方ない部分だからだ。年齢を偽って登録できるマッチングアプリ側に問題があるという見方もできる。事実、ネット上では石川への同情の声も少なくない。
「箱根前の密会」はチームメイトを裏切る行為
21歳と17歳の交際に不自然な感じはあまりしないが、成人男性としては社会のルールを守らないといけない。どんな理由があれ、石川の行為は社会的に許されるものではないだろう。そして筆者が一番気になっているのは、コロナ禍に見舞われた箱根駅伝前の大切な時期にこのような不祥事を起こしたことだ。
石川は本番直前の20年12月20日に少女と会っている。箱根駅伝を主催する関東学連は出場チームに徹底した感染防止対策を施していた。箱根駅伝は12月10日にチームエントリーがあり、各校登録される選手16人が決まる。関東学連のガイドラインでは、12月12日以降に「陽性」反応があった選手と、12月19日以降に「濃厚接触者」と認められた選手は大会に出場できない。各校は部外者以外と接触することに細心の注意を払っていたはずだ。しかし、石川は自身の欲求に打ち勝つことができなかった。
もし少女がコロナ感染者だったら、石川に感染する恐れがあった。そうなると同じ寮で生活する選手の大半が「濃厚接触者」になっていた可能性がある。最悪の場合、駒大は大会に出場できなかったかもしれない。
箱根駅伝が近づいてくるとチーム内はピリピリした雰囲気になってくる。特に強いチームほどレギュラー争いは熾烈だ。そのなかで、同大の大八木弘明監督は優勝争いがもつれることを想定して石川の10区起用を決めた。
「12月30日に(実際に走る10人の)メンバーを発表するまで誰が外れるかわからなかった。チーム内で競争心が沸いていたなかで、最後の1カ月くらいは石川に男気があったんです。前(2019)年は競り合いに負けましたが、今回はリベンジしてくれるんじゃないかなと思っていました」(大八木監督)
前年も同じ10区を担った石川は東洋大をかわして8位でゴールしているが、早大に1秒差で競り負けている。石川も筆者の取材にこう答えていた。
「もう一度10区を走らせていただいたので、絶対に前回の悔しさを晴らしてやろうという思いでした。区間賞を目指して走ったんですけど、15km地点の給水をもらったとき、いつも以上に身体が動いていたんです。これなら逆転の可能性があるかなと思っていました。20kmくらいですかね。監督の『男だろ!』という声が届いて、自分のなかでスイッチが入ったんです。監督の檄が飛んできた瞬間に動きが変わりました」
石川は狙い通りに区間賞を獲得。さらに創価大との3分19秒差をひっくり返して、駒大に13年ぶりの総合優勝をもたらした。世紀の大逆転を演じる直前に少女とホテルで密会して、チームメイトたちを裏切っていたことになる。これは箱根駅伝を目指す者にとって、「わいせつ行為」以上に“重い罪”ではないだろうか。