業界全体の信用を失わないための連携

こういう場合、自分の会社が先手を打って発表さえできれば、競合他社はどうでもいいというわけにはいきません。

栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)
栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)

競合が追及を受け、世間からの批判を集めれば、業界全体に悪影響を与えることもあり得ます。業界全体にネガティブな印象を持たれれば、同じ業界にいる企業はどこも同じ穴の狢だと思われ、自社もダメージを受けかねません。各社が真摯しんしに取り組んでいても、マスコミへの対応の仕方を誤れば、消費者に誤解を与えてしまう可能性があるのです。

ですから、このときは競合他社の広報の方と連絡を取り合い、お互いの調査や対応方針を情報交換し、足並みをそろえて、メディアに対応しました。

そのおかげで、私の回答に対してメディアの方から「他社さんも同じようなことをおっしゃっていましたよ。どこも、そんなものなんですかね」と納得していただき、思いもよらない追及を受ける事態を回避できました。騒動自体も徐々に沈静化し、影響を最小限でとどめられたと思います。

イザというときのための人脈

業界を守るために、各社が裏で不正な情報操作を行ったり、消費者の不利益になるような情報開示の遅延をさせたり、隠蔽いんぺい工作をしたりしてはいけないのは、言うまでもありません。

ですが、広報としての対応を誤って、業界全体が信用を失うことも避けなくてはなりません。そのためには、業界としての連携も必要です。こういう緊急時に協力できるのも、普段から広報同士のつながりを持っていたからこそ。

信頼関係がなかったり、相手の立場がわからなければ、すぐに連携して難しい問題に取り組むことはできません。

競合企業だと、何となくつながりを持つことをためらう気持ちもあるかもしれませんが、競合だからこそつながりが大事なときもあるのです。