「急変対応」ってどこまで? 設備や薬剤は? 最終的な責任者は?

急変対応の多くは「迷走神経反射」などの一時的な気分不快だが、まれに「アナフィラキシーショック」などの生死にかかわるアレルギー反応が報告されている。

これらの応急処置や薬剤投与は医師の仕事となる。慣れた病院の診察室とは違って、体育館やテントなどの急ごしらえの接種会場で、どの程度の薬剤や設備があるのか。不安に思う医師は少なくないはずだ。

また、薬品には「プラセボ効果」のみならず「ノセボ効果」もある。

「頭痛に効く薬」と強調して、患者にはカプセルの中に飴などを入れたものを服用してもらうと、不思議と回復に向かうのがプラセボ(偽薬)効果だ。逆に、「この薬は副作用が多い」と強調して飴を渡すと不快な症状が出てしまうのが、ノセボ効果である。

報道などで「コロナワクチンは危険!」といった情報を見聞きした人の中には、この「ノセボ効果」だけで気分が悪くなる人が出現する可能性は十分ある。接種の現場でこういう不安感を解消できるような時間的な余裕があるのかどうかも懸念されるところだ。

制服を着用した医療スタッフ
写真=iStock.com/VikiVector
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厚労省の手引きでは「接種対象者が接種医の名前を確認できるようにする」とある。そして、接種の数日後ぐらいに「心筋梗塞」「脳出血」などが発生し、不幸な転帰をたどった場合、説明責任は発注元の市町村にあるか、医師個人にあるのか、(今のところ)明言されていない。これも「手を挙げる医師が少ない」理由のひとつだろう。

医師はバカではない「政策の失敗は接種会場では補えない」

「戦略の失敗は戦術で補うことはできない」

これは東洋における孫子の兵法と並んで古典的な名著として名高い『戦争論』を著したプロイセン将校カール・フォン・クラウゼヴィッツ(1780年-1831年)の言葉だ。

コロナワクチン接種に関しても「政策の失敗は、個々の接種会場で補うことはできない」のを、医師たちは何となく感じているから、手を挙げたがらないのではないか。

前出の「医療機関向け手引き」にあった、「適切な説明」というシンプルだが、どこか空疎な言葉。政治や行政の責任を、現場に押し付けるだけでは、今後も必要な医師数は確保できないだろう。

「ネットやタブレットなどIT活用で効率的な問診」
「集団接種に非協力的な人は、(航空機内における機長のように)医師の判断で接種拒否できる」
「不測事態の最終責任者を明示」

などの現実的なガイドラインを制定することが、回り道のようでいて安定的な医師確保の近道になるだろう。

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