コロナ禍でリモートワークの導入が一気に進んだ。ただしデメリットも明らかになりつつある。社会学者の山田昌弘氏は「社員も雇用主もストレスの少ないリモートワークスタイルの確立には時間がかかるだろう」という――。

※本稿は、山田昌弘『新型格差社会』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

自宅で仕事をするために困っている日本人男性
写真=iStock.com/kazuma seki
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最も恩恵を受けたのは「ひとり暮らしの人」

リモートワークの導入が容易な業種で働いていても、狭い家に住んでいた場合、快適に仕事をすることはできません。図らずも、住居の格差が仕事や家族関係にも影響を及ぼす結果になっています。

ある調査では、リモートワークの導入で最も恩恵を受けたのはひとり暮らしの人だったそうです。子どもを持つ人は、特に昨年の緊急事態宣言で学校が休校のときに、相当ストレスを感じたそうです。また、就活中の大学生の子どもがいる共稼ぎ夫婦の中には、コロナ禍においてオンライン就職面接を受ける息子と、夫と妻双方のオンライン会議の時間がぶつかってしまうことがあったとも聞きます。「狭い家で3人がそれぞれオンラインで会話していると、うるさくて仕方がありません。だから、カフェや漫画喫茶に出かけて会社の業務をしています」と語る人もいました。

リモート普及前は「仕事中は平等」だった

このように、家族構成が同じでも家の広さで新たな格差が生まれ、しかもそれは簡単に解決することができません。サラリーマンの居住環境が業務成果や家族のストレスにこれほど影響を及ぼすなんて、2020年になるまで誰も予想できなかったのではないでしょうか。

東京では、4人家族が2LDKで60平方メートルほどのマンションで暮らしている例は珍しくありません。いわば、中流家庭として遜色なかった家族形態が、リモートワークやオンライン授業に変わったことで「不都合」や「不足」が表れてきているのです。つまり、リモート普及前は、授業を受けたり仕事に行ったりしている間は「平等」な環境下にいられたわけです。リモートによって、各々の生活の格差が、授業中や仕事中にも顕在化したのです。

歩くスペースが限られ、しかも変化の少ない家庭内にずっと居続けることは、職場とは別の種類のストレスを生み出します。外部刺激はおしなべて少なくなり、運動量は明らかに減ります。これは正規雇用者のリモートワークに限らず、パートやアルバイトで働く者にとってもまったく違いはありません。たとえば、週に数回パートに出ていた主婦層にとっても、その時間は報酬のためばかりでなく家事や育児で自然に溜まってしまうストレス発散の機会になっていることが珍しくありません。