新型コロナウイルス感染拡大防止のため、国や自治体は「夜の店」への休業や営業短縮を要請している。社会学者の山田昌弘さんは「風俗産業は女性が経済的に誰にも頼れなくなった時の、ある種のセーフティネットとして機能していた側面がある。困っている女性は多くいるはずだ」と指摘する――。

※本稿は、山田昌弘『新型格差社会』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

都会の夜景を眺めている若い女性
写真=iStock.com/Satoshi-K
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DVは増えているのに、保護は増えていない

ここ数年の結婚数の減少に伴い、日本全体の離婚数は、実際のところ漸減していました。日本では、子どもを育てるためにある程度の経済的な余裕が必要です。シングルファーザー、シングルマザーになると、収入が減ることで子育てが難しくなる。ですから相手への愛情がなくなったとしても、子育てのために婚姻関係を継続するカップルがたくさんいます。特に、専業主婦を続けてきた女性の場合、男性に比べて離婚後に子どもを育てながらフルタイムの仕事に就くことはかなり難しいため、離婚を躊躇する傾向が見られます。

私は内閣府の「男女共同参画会議 女性に対する暴力に関する専門調査会」の専門委員を、約15年間続けてきました。DVに関する最近のデータ傾向を見ると、女性センターなど専門機関への相談件数は右肩上がりで増えています。しかし、「保護」に至るケースはそれに比例していないことがわかります(図表1、図表2)。

警察における配偶者からの暴力事案等の相談等件数
新型格差社会』より
婦人相談所のおける一時保護件数
新型格差社会』より

「シェルターに入るより夫と暮らしたほうがマシ」な日本の現状

保護とは(多くの場合)、夫のもとから逃げ出して、シェルターなどに入ることを指します。相談は増えているのに保護件数が増えていないという事実は、DVを実際に受けていても、夫と暮らしたほうがまだましと考えている女性が増えていることを示します。常日頃から口頭で罵倒されたり、たまに暴力をふるわれたりしても、別れた後の経済状況を考えると今の生活を続けざるを得ない。被害を受けている側に我慢し続けることを強いて、DVを行う側にはほとんど何の介入もできない。それが今の日本のDV政策の実情です。

DVの加害者は男性であることがほとんどですが、夫のほうも、妻は逃げても自活できないと思っているからDVをし続けられるという側面があるのです。ちなみに欧米には、DVの被害者はそれに対応するための有給休暇の申請をすることが認められている国が複数あります。加害者に対する自宅からの退去命令がある国も多いです。一方日本では、夫が嫌がらせで妻の職場に押しかけ、それが理由で退職に追い込まれるような事態も稀ではありません。