都市部で目立つ中学受験をする家庭

もともと日本では、コロナ以前から「教育格差」が静かに進行していました。この15年ぐらいの間に、東京や神奈川、大阪などの都市部の家庭では、中学受験をして私立中学を目指す人が増えています。一定以上の収入がある家庭では、子どものほとんどが地元の公立に進学せず、私立に進むという地域もあります。中高一貫の私立に進学した場合、6年間の学費は400万円以上かかるのが普通ですが、それでも私立を選ぶ家庭が増えています。

Webチャット会議で自宅で働く女性
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数年前に、東京の下町にある中学校に教育実習生の指導に行ったことがあります。驚くことにそのクラスでは、女子中学生の人数が男子のほぼ半分でした。先生方に訊くと、その地域に住む女子の家庭の多くが、娘を近隣の私立中学に進学させることが理由でした。なぜなら校則を守らない生徒が多く、「娘をこの中学に入れたらまずい」と考えての親の判断が生まれるのでしょう。

私もその中学の授業を見学しましたが、先生が何人も教室にいる中で、男子生徒が消しゴムの飛ばし合いをして遊んでいました。私語もひっきりなしに聞こえてくるのに、教師は誰も怒らないのです。「これでは、インテリの親は確かに娘を入学させたくないだろう……」と感じたものでした。

「小4で中学受験専門塾に入れるか」で人生が決まる

近年、日本の最難関大学である東京大学や京都大学に入学する学生の多くは、中高一貫校の卒業生だといわれます。いわば、「学歴」を決めるのが大学受験ではなく、中学受験だというわけです。小学生のときから受験のために塾通いをし、中高一貫校への入学を果たして偏差値の高い大学を出た彼らは、大手の優良企業や給与の高い外資系企業などに就職し、社会の「上層」の一員となっていくのです。

つまり、小学4年生ぐらいの時点で、毎月5万円以上の受講料がかかる中学受験専門塾に通えるかどうかで、その後の人生ルートがある程度決まってしまう。これが、今の子どもを取り巻く現実になりつつあります。親の所得が子ども世代に影響し、格差が再生産されている状況です。この日本の「教育格差」の広がりによって、10~20年後に社会階層の固定化がもたらされることが予想されます。極端にいえば、日本は自ら階級社会への道に戻ろうとしているのです。