世界最悪の借金大国で増税論が起こらない不思議

日本の借金総額は対GDP比で266%と世界でダントツに悪い。131%の米国はもちろん、161%のイタリアに比べても格段に悪い。税収はGDPにほぼ比例するので、日本は「税収で借金を返すのが世界で最も難しい国」となる。

【図表】主な国の債務残高
出所=財務省HP

さらに言えば、日本は他国に比し高齢化で、労働生産人口の減少幅が大きい。税金支払いで借金を返していく主力層が減少していくのだから、1人当たりの負担はさらに重くなり、借金返済の厳しさは増す。

少し前まで、外国人の間で主流をなしていたのが、「日本の財政は大丈夫だ。いざとなれば世界で最も低い消費税を上げて増税を行えばいい」だった。今や、そんな主張さえ聞かなくなった。

後述する「財政ファイナンス」という危機先送り策で、倒産リスクがなくなったのが主たる理由だろう。あるいは「税金ではもう借金は返せない」ことが明確になったせいなのかもしれない。

すでに2つ目の選択肢(借金踏み倒し策)を採ってしまい、もはや後戻りできないところまで来ているのが最大の理由だろう。

異次元緩和で麻痺した財政のバランス感覚

異次元緩和という実質財政ファイナンスでは、金が無ければ新たに紙幣を刷る(=厳密に言えば日銀当座預金を増やす)のだから、お金が足りなくなるはずがない。危機破綻やデフォルトのリスクはなくなった。

しかし、確かに「紙幣はいくらでも刷れる」のだが、問題は「信用される紙幣」はいくらでも刷れるわけではない点だ。紙幣が信用を失い、ハイパーインフレが発生するリスクがある。

それこそ先人が財政ファイナンスを「禁じ手中の禁じ手」とした理由がそれだ。

紙幣に信用がなくなれば、いくら紙幣を差し出しても、売り手がモノを売ってくれなくなる。ハイパーインフレの発生はモノの需給で起こるインフレ/デフレとは発生原因が違うのだ。

だからデフレ下でも一晩でハイパーインフレが起こりうる。モノが世の中にどんなにあふれていようと、おもちゃの紙幣では売ってくれない。法定通貨に信用がなくなるとは、おもちゃ紙幣と同じ価値しかなくなることを意味する。

忘れ去られた日銀設立の経緯

法定通貨の刷りすぎでハイパーインフレが起きた例はいくらでもある。そもそも日本銀行を創設した理由が紙幣の刷りすぎによる悪性インフレから脱却するためだ。

西南戦争が起こった明治10年は日本銀行の設立前で、政府自身が不換紙幣を発行していた。現在の統合政府論者が主張する仕組みだったわけだ。