私がグーグルで働いていた頃は「世界で一番働きたい会社」とも言われていた。本社のキャンパスには無料のカフェテリアが数十か所あるほか、美容院やジム、コインランドリーのような設備などもあり、敷地内で生活を完結させられるほどになっている。

良質な環境が「社員を拘束している」に変わった

しかし、リモートワークを前提とした社員が増えていけば、そうしたオフィス環境の価値は薄れる。それどころか、キャンパスに洗濯機や仮眠室などもあったことから「社員を会社に閉じ込めるためのタクティクスだったのではないか」という批判も近年出てきたくらいだ。

自宅で働く男性
写真=iStock.com/chee gin tan
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最近のシリコンバレーではむしろ、社員を拘束しないで、働かせすぎないようにする方向で議論されることが増えている。人にうらやましがられるような環境を提供するよりリモート化を進めたほうが世界中から優秀な人材を集めるために有効な手段になってきたのだ。

キャンパスの快適さなどは前ほど魅力ではなくなり、キャリアデザインのトリレンマからは「場所」が外されることになる日も近いかもしれない。

通勤とリモートのハイブリッド型が増える

フェイスブックやツイッターが永続的にリモートワークを推進する方針を示したのも、優秀な社員を確保するためだといえる。グーグルは、リモートワークを2021年9月まで延長することを発表した。ただし、社員の職種や居住地域のコロナ感染リスクによっては、割り当てられたオフィスから通勤距離内に住む必要があり、週に3日は会社に来ることを義務付けた。

社員を通勤可能な範囲に居住させ、社員間のコラボレーションを促すために定期的にオフィスに通勤させるハイブリッド型モデルは、今後増えると考えられる。

その一方で、シリコンバレーは物価が上がっていることもあり、ここ数年はエクソダス(集団退去)が進んでいる。「脱シリコンバレー」とも言われるようになっていたので、今後もその動きが強まっていくものと予想される。

「リモートしながら週末はビーチに」なんてことも

例えば、サンフランシスコに本社を持つオンラインストレージ大手のドロップボックス(Dropbox)社や、ログ解析ツール最大手のスプランク(Splunk)社などのCEOは、テキサスに新しい住居を構え、今後はテキサスを会社の中核にする計画だという報道があった。

サンフランシスコ市内にあるオフィスのリース更新は行わないのかもしれない。その背景には、カリフォルニア州の所得税の高さ、キャピタルゲインが所得と同じとみなされることによる高い税金などにうんざりしているテックエグゼクティブの懐事情も挙げられる。