GAFAをはじめとするシリコンバレーの大手IT企業は、オフィス環境の充実ぶりから『世界で一番働きたい会社』とも言われている。だが、AI開発を行うパロアルトインサイトCEOの石角友愛さんは「最近のシリコンバレーでは、人にうらやましがられるような環境を提供するオフィスだけでは不十分になってきた」と指摘する――。

※本稿は、石角友愛『“経験ゼロ”から始める AI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

共同共有オフィス
写真=iStock.com/chee gin tan
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コロナが変えた働き方のトリレンマ

個人が仕事を選択する際には「どの地域に住むか」、「どの業界で働くか」、「どの職種につくか」を考えるのがこれまでの基本になっていた。

2つの選択肢のあいだで板挟み状態になることをジレンマ(dilemma)というのに対して、選択肢が3つになるとトリレンマ(trilemma)という。

「3つの希望をすべてかなえるのは難しいので、2つに絞り込むのがいい」ということはハーバードビジネススクールでも教えられている。

日本の高校を中退して渡米した私は、アメリカの高校、大学を卒業したあと、日本で起業したが、再びアメリカに渡ってハーバードビジネススクールに入った。在学中に結婚、出産したので、1児の母として就職活動を行うことになっていた。MBAは取得していたものの、簡単に就職先は見つからなかった。

私の場合は「シリコンバレーのIT企業で働きたい」というように地域(場所)と業界で絞り込み、職種は問わないスタンスだった。実際にオペレーションマネージャー、営業、カスタマーサポート、マーケティングなど、手あたり次第に応募していった。

どんな職種にも対応できるようにしたいという考えもあってMBAを取得していたので迷いはなかった。その結果、グーグル本社に採用され、シニアストラテジストとしてAI関連プロジェクトに携わることになった。

カフェテリア、美容院やジムまで

私が担当していたことは、機械学習で欠かせないデータのラベル付け作業を行うチームの管理、オペレーションの設計、学習用データセットの作成を拡張性が高いかたちで行うプロセスの提案などだった。あとで解説するAIビジネスデザイナーにも近いといえる。

グーグルで働いたあと、シリコンバレー現地でAIスタートアップ2社を経て、そこで学んだ最先端の戦略やAI開発を日本企業に導入したいと考えて、パロアルトインサイトを設立した。

私自身はIT業界の経験がない中、シリコンバレーという場所にのみ焦点を絞って就職活動をした。そして、グーグル本社での経験を生かしてAIを核としたプロダクト開発の現場を学び、AIビジネス領域での強みを身につけるというキャリアデザインができたと振り返れるが、今の時代はまた事情が違ってきている。

すでに解説しているようにニューノーマルではリモートワークが進んでいくので、キャリアデザインを考えるうえで「場所」が持つ意味は小さくなっている。すべての会社がフルリモートに移行するわけではなくても、リモートワークが広く取り入れられるようになってきたのだ。