人間心理を操るテクニックが満載
催眠術の台本(スクリプト)には人間心理を操るテクニックが満載だ。例えば本書で紹介している「ものを好きにさせる催眠」は、2~3人に1人がかかる成功率の高い催眠術だ。対象物を魅力的に描写し、催眠にかかる側に“これはあなたにぴったりだ”と伝えて独占欲を煽る。すると、何の変哲もないペットボトルにも愛着が湧いて手放せなくなる。
「この催眠には、欲望をくすぐるプレゼンテーションのコツが詰まっています。本書に掲載したスクリプトは、私が実際に使っているもの。そのまま読み上げるだけでも成功率は高いはずですよ」
このように、催眠術は意外にも習得しやすく成功率が高い。だからこそ、漆原氏は催眠の仕組みやリスクを伝える書籍づくりにこだわった。
「セールストークや演説など、催眠術に用いられる“暗示”のテクニックは日常に溢れています。人間の認知は変わりやすく、暗示によってものごとを信じているときの脳は真実と嘘を区別できません。極端なことを言えば、陰謀論でさえ、信じる人にとっては真実なのです」。しかも、催眠のかかりやすさは、知能や騙されやすさとは関係ないという。
「人間の心理や認知をハックする動きに抵抗する武器は知識しかありません」。日常を快適に過ごすだけでなく、自分の身を守り、相互理解を深めるヒントとしても、1度催眠術の世界を覗いてみては。
漆原正貴
1990年、神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科修了。手品や催眠の認知科学を研究。大学院在学中にスマートニュースに入社し、現在は出版社に勤務しながら催眠術師としても活動している。
(撮影=塩川雄也)