リーマンショック後に激増した生活保護開始数
図表1はリーマンショック(2008~09年)とコロナ危機(2020年)の東京都の生活保護の開始数の推移を表しています。
2008年9月のリーマンショックのあと、年末の年越し派遣村を経て2009年1月から保護開始件数が急増し、3月には4000件を上回るような状況となりました(前年同月比164%)。当時の生活保護の増加がいかに激しかったかがわかります(図表1上)。
一方、今回のコロナ禍では生活保護への影響がほとんど表れていません(図表1下)。緊急事態宣言が出された2020年4月にわずかに増えたものの、その後はむしろ減っているようにすらみえます。コロナ危機は国民経済や人びとの生活へたいした影響をあたえなかったのでしょうか。
——もちろんそんなことはありません。これを説明するのが、図表2の緊急小口資金(臨時の生活資金貸付制度。新型コロナウイルス感染症の緊急対策として、2020年3月に対象が特例拡大された)の貸付件数です。
コロナ以前は月10〜20件程度(リーマンショック時でも最大300件程度)だった緊急小口資金は、緊急事態宣言が出た2020年4月に1万6940件に跳ね上がりました。続く5月にはさらに3万5000万件、6月には4万件を越えました。6月の1カ月間だけで昨年度実績(184件)の200倍以上という桁ちがいの貸付処理を窓口で行ったことになります。受付窓口の職員の方々の混乱がいかほどだったかは想像にかたくありません。
緊急小口資金は生活保護の“身代わり”になっていた
緊急小口資金の激増は生活保護の“身代わり”でもありました(生活保護の数値が微動だにしなかったことがそれを物語っています)。政府は緊急小口資金などの貸付制度や家賃補助制度(住居確保給付金)の利用要件を大幅に緩和することで、経済的に苦しくなった人びとを、生活や住居、医療といった生活全般を保障する生活保護ではなく、期限付きの別の制度へ誘導したといえます。
生活保護への“防波堤”となった貸付制度や住居確保給付金の受付窓口となったのは、社会福祉協議会(社協)という地域福祉の推進を担う民間団体です(福祉資金貸付は社協、住宅確保給付金は自立相談支援機関が実施主体。後者は6割以上が業務委託であり最大の委託先は社協。他にNPOや株式会社なども受託)。
今般のコロナ危機による生活困窮者対応は、生活保護ではなく貸付(≒借金)と家賃補助制度が主戦場でした。それは供給体制の視点で見ると、自治体直営である福祉事務所ではなく、委託先の民間団体(社協)に業務負担が流れる構造です。コロナ対応の困窮者支援を外部(民間)にアウトソーシングしていたともいえます。