菅政権最大の看板政策「携帯電話の値下げ」
新型コロナウイルス感染症への対応が後手後手に回って支持率が急落している菅義偉首相の最大の看板政策は「携帯電話の値下げ」といってもいいだろう。官房長官時代の2018年には「今よりも4割程度下げる余地がある」と発言、大手携帯電話会社が多額の利益を上げていることに触れて、「競争が働いていないといわざるを得ない」と断言、大きな話題になった。
首相に就任して初めて臨んだ10月の所信表明演説でもこう述べた。
「携帯電話料金の引き下げなど、これまでにお約束した改革については、できるものからすぐに着手し、結果を出して、成果を実感いただきたいと思います」
値下げを実現させ、その成果を国民に実感してもらうと大見えを切ったのだ。
総務相に任命された武田良太衆議院議員は、さっそく行動に出る。
自ら携帯電話利用者との意見交換会に出席、10月下旬には総務省が「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」をまとめて発表した。プランの柱は「分かりやすく、納得感のある料金・サービスの実現」「事業者間の公正な競争の促進」「事業者間の乗換えの円滑化」の3つだったが、要は目に見える大幅な値下げを求めたのだ。
メインブランドでの値下げを迫った武田総務相
これを受けて、大手携帯電話会社のKDDIやソフトバンクは格安プランを打ち出す。
だが、それぞれ「UQモバイル」「ワイモバイル」といった自社が持つ格安ブランドでの料金プランを打ち出しただけだった。これに武田総務相が噛み付いた。12月1日の記者会見の席で、「ユーザーに料金が下がった実感が湧かないと何の意味もない」と不満をぶちまけ、「au」「ソフトバンク」といったメインのブランドで値下げに踏み切るよう迫ったのだ。
その直後の12月3日、NTTドコモが、新プラン「ahamo(アハモ)」を発表する。データ容量20GB(ギガバイト)で月額2980円(税抜き)という価格に、業界には激震が走った。
その翌日の12月4日には武田総務相が会見でこう述べる。
「実に6割強の値下げ、2018年度段階からは70%を超える値下げに踏み切ったわけであって、公正な市場に競争を導く大きなきっかけになることは、我々も期待しているところであります。サブブランドでなくメインブランドに対して、新しく大容量の低廉な料金プランを発表したものですので、これは、同業他社の皆様方も注視しているところであるので、それぞれの経営判断に基づいて、適切に運営していただきたい」
前段で、「この料金プランは、あくまでもそれぞれの法人事業者の経営判断に基づくものだと思っております」とわざわざ述べていたが、業界関係者の多くが菅首相や武田総務相の「値下げ圧力」が、新プランの背景にある「官製値下げ」を意味することは明らかだと感じていた。