トップモデルを軸にしたナイキの抜け目ない「横展開」営業戦略
正月の駅伝はナイキが“独走”したわけだが、これはレース用シューズに限ったことではない。最近はナイキ厚底シューズをいかに履きこなすかが各チームのテーマになっている。
駅伝・マラソン選手はトレーニングに応じて3~4種類ほどのシューズは履き分けている。本番でナイキ厚底シューズを着用して最高のパフォーマンスを発揮するために、トレーニングでどのシューズを履くのかをより考えるようになったのだ。
アルファをレースで着用する選手は前足部にエアが搭載されている「エア ズーム テンポ ネクスト%」を、ヴェイパーを着用する選手は「ズーム フライ」を練習で履くことが多い。普段のトレーニングからヴェイパーやアルファに感覚の近いシューズを履いている選手が増加。ナイキはトップモデルを制したことで、有力ランナーたちのシューズを“囲い込む”ことに成功したといえるだろう。
ナイキはその勢いに乗って、さらなる手を打ってきた。
「ケガ予防」の新シューズを2月に発売予定
それが2月に発売予定の「ズーム X インヴィンシブル ラン」だ。価格は2万2000円(税込)。ランナーの“怪我ゼロ”を目指すためのモデルで、ミッドソールのクッショニングを大きくして、同時に底幅を広げることで安定感を出した。重量は28cmで314g。
ヴェイパーやアルファより少し重いが、両モデルにも使われているズーム X フォームを足型からはみ出すくらい存分に使用している。
ソールは踵部分で36.6mmある厚底タイプで、耐久性は800km以上をクリア。ナイキのテストでは、故障者が大幅に減少したという。筆者は一足先に履かしていただいたが、ソールがふわふわしていて気持ちよく走ることができた。
服部勇馬も「シューズを履いて、これほど感動したのは初めて。クッション性がこれまで履いてきたシューズの中でも別格。重心移動もスムーズで、走っていて楽しさを存分に感じられる一足。たくさんの人に履いてもらいたい」と自身のSNSに感想を書き込んでいる。
カーボンファイバープレートが内蔵されているヴェイパーやアルファは自然と脚が回転するような感覚があり、ゆっくり走ることには向いていない。
一方、この怪我ゼロを目指すズーム X インヴィンシブル ランにはプレートが使用されていない。クッショニング性の高いズーム X フォームが怪我予防につながるだけでなく、フルマラソンで4時間以上かかるランナーや、普段はゆっくり走るというランナーに適しているかもしれない。
ヴェイパーやアルファはスピードシューズで、すべてのランナーにマッチするわけではない。そのなかでナイキはこれらトップモデルにつながるようなシューズを多く出している。
他メーカーもナイキの牙城を崩すべく虎視眈々とシューズ製作に励んでいるだろう。
ユーザー側としては、そうしたメーカー間の競争を見ながら、自分に合うシューズを選ぶことがランニングを楽しく続けるコツになるだろう。コロナ禍でマラソン大会などに出場できない状況が続くが、気分転換に新シューズを購入して春を待つのも悪くない。