しかし年末年始も新規感染者は増え続けて、医療崩壊を懸念する声が高まるばかり。2日には小池百合子東京都知事の発案で、感染爆発が収まらない1都3県の知事が揃って緊急事態宣言の早期の再発令をコロナ担当の西村康稔経済再生担当大臣に求めた。3時間に及ぶ直談判だったと言われるが、その2日後に菅首相は宣言発令の検討に入ることを表明した。

発令の仕方に透ける菅総理の本音とは

こうした流れを見ていると、自ら決断したというより、押し切られてやむなく緊急事態宣言を出した菅首相の心の内が透けてくる。リーダーが緊急事態を宣言するからには相当に覚悟がいる。いくら美辞麗句を並べ立ててもその覚悟というものが伝わらないから、緊急事態宣言の内容も緩んだものに感じてしまうし、国民が危機感を共有できないのだ。

「1カ月後には必ず事態を改善させる」と菅首相は決意を示して国民への協力を呼び掛けた。しかし前回のように国民の行動変容を促す宣言になるかは疑わしい。

後手後手の決断が菅スタイルなのだろう。Go Toトラベルの一斉停止を巡る経緯もひどかった。

世論調査で国民の半数以上が「中止すべき」と答えていたにもかかわらず、「Go Toトラベルの利用者4000万人中、感染者は180人。感染を拡大させたエビデンス(証拠)はない」と菅首相は言い張ってきた。利用者全員にPCR検査を実施した結果でもないのに、4000万分の180という意味のない数字(ほとんど自己申告)をよく平気で持ち出してくるものだ。

Go Toトラベルを主導したのは、安倍前政権の菅官房長官であり、菅政権誕生のキングメーカーである二階(俊博)派の議員たちである。全国旅行業協会の会長を務める二階幹事長の顔を潰すわけにもいかなかったのだろう。

ところが政権支持率が音を立てて下がってきた20年12月中旬、菅首相は突如として、20年12月28日から21年1月11日までGo Toトラベルを全国一斉に一時停止する考えを表明した。二階派の議員が激怒するほど根回しを怠った決断だったようで、言い換えればそれだけ場当たり的だったということだ。

二階俊博という政治家は、世論の動きに鋭敏だ。世論の潮が引いていると見れば、Go Toトラベルの中止もあっさりと認めるところがある。その二階氏への根回しがなかったとすれば、二階氏を説得する力がもはや菅首相にはないことが露呈したとも言える。21年1月12日に再開する予定だったGo Toトラベルは世論的には中止せざるをえないが、二階幹事長への説明をする勇気がない。そういう事情だから1都3県の要請に従った、という構図にしたように見える。