「悪用の恐れ」「性教育が先」には疑問

議論の高まりを受けて、日本産婦人科医会は10月に記者会見を開いて反対意見を表明しました。「ホルモンについての知識がない人が薬局で簡単に買える状態にするのは問題がある」といった、女性側の知識不足や性教育の不備を挙げ、時期尚早だとしています。

慎重派の人たちからは「悪用の恐れがある」という意見も挙がります。つまり、「あとでアフターピルを飲ませればいいから」と、避妊をせずに性交渉する男性が増えるのではないかというのです。

でも考えてみてください。そう考える男性がいたとしても、今は既にネットでアフターピルを手に入れられますし、さらにいうと、本当に悪い男ならば「女性が妊娠しようがしまいが知ったこっちゃない」ですよね。

「性教育が先」論も根強いです。性教育が行き渡り、低用量ピルなどの他の確実な避妊方法も含めて正しい知識が知られるようになることの方が先だ、というわけです。

もちろん、私も今の日本は性教育が不十分だと思いますし、性教育はもっと進めるべきだと思います。でも、性教育が行きわたるまで、とても待ってはいられません。これまで性教育を十分に受けてこられなかった女性に対しては、何の救済もないからです。「どちらが先」ということでなく、性教育もアフターピルへのアクセスも、両方一刻も早く行われるべきでしょう。

6割以上が「薬局販売に賛成」

過度な慎重論に、私たち世代の産婦人科医は正直、非常にがっかりしています。日本産婦人科医会の記者会見を見て、産婦人科医はアフターピルの薬局販売に反対しているのではと思った人もいるかもしれませんが、それは違います。2019年5月に産婦人科医有志が行った、産婦人科医559人を対象としたアンケートでは、66.6%が薬局販売に賛成していました。

今、議論が活発になっているのは、よい兆候だと思います。オンライン署名サイトでは、12月16日時点で10万人以上の署名が集まっています。やはり以前はもっと慎重論が多かったように思えますが、変わってきています。議論が盛り上がれば、さらに関心を持つ人も増えます。

ただ、アフターピルの販売をどうするかについて、意思決定を行う政府や医療関係者の顔ぶれを見ると、残念ながら圧倒的にご高齢の男性が多い。アフターピルを使う可能性のある世代の女性がほとんど入っていません。

避妊手段へのアクセスは、妊娠や出産、避妊について女性が自分で決める権利「女性のリプロダクティブヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康や権利)」であり、人権の一つでもあります。当事者である女性の声を、意思決定の場にもっと反映させてほしいと思います。

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