市民を助けた救急隊員が警察から殴られる
負傷者は救急車と遺体搬送車に分乗した。病院までは1、2分しかかからない距離だったが、途中の検問で軍に指示され、救急車は郡知事庁舎に向かった。
郡知事は、選挙で選ばれる市長や県庁といった地方行政のトップではなく、中央政府から派遣された治安担当のような仕事をしている。庁舎に着くと、警察官が運転手を引きずり下ろし激しく殴り付けた。
「お前はなぜ、あの現場に行ったんだ。何の用で行ったんだ」
複数の警察官がレフィックら3人の負傷者の襟ぐりをつかんで引きずり下ろして、殴る蹴るの暴行を始めた。
「僕は報道機関で働いている」
レフィックは、首から下げていた記者証を見せて叫んだが、警察官はそのカードを引っ張り外した。
「トルコの本当の力を見せてやる」
「お前ら全員、テロリストだ」
警察官たちは言い返すのを待っている、とレフィックは感じた。
何か言ったところで、何の意味もない。彼の沈黙が男たちをさらに焚きつけた。
「俺の顔を見るな、目をつぶれ」
警察官はそう命じた。
自分たちがいつか告発されるかもしれないと恐れている、とレフィックは殴られながら思った。警察官は、レフィックら3人をしばらくその場所に放置した後、自分で救急車に乗るよう命じた。
負傷したカメラマンに暴力をふるう兵士たち
足から流血しているレフィックは這うしかなかった。
殺されるかもしれない。救急車が遠回りをしながら走っている時に、そう覚悟した。
到着したのは、国立病院だった。だが病院は軍の基地になっており、待っていたのは多数の警察官と兵士だった。救急車は病院入り口の25メートルほど手前で止まり3人が車椅子に乗せられると、携帯電話を持った兵士が群がってきた。
「テロリストめ」
寄ってたかって顔を殴られ、携帯電話で写真を撮られた。レフィックは顔を覆ったが、無駄だった。運転手も殴られていた。レフィックはここでも叫び声も上げず沈黙を守ったが、心理的には打撃を受けていた。
血を流し痛みに苦しんでいる者を見せ物にして侮辱し、「テロリスト」と呼んで集団で暴力を振るう。一般市民であってもカメラマンであっても、クルド人は兵士にとって敵であり「死ぬべき存在」と考えているのだ。兵士の憎悪と敵意をレフィックは感じた。
「どんなに言葉を尽くしてもあの時の気持ちは説明できない。僕には殺されるよりたまらないことだった。人間が人間に対し、なぜあんなことができるのか」
銃撃による痛みなんて、侮辱されることに比べれば取るに足りなかった、とレフィックは言う。
病院の医療従事者にはジズレの住民もいれば、首都アンカラから派遣された者もいたが、誰もが悪態をつきレフィックをテロリストのように扱った。傷の具合を診断した医師は、約150キロ離れた町マルディンの病院にレフィックを搬送すると決めた。
「この足は切断するしかないな」
車の中で、兵士が笑った。