理不尽極まりない状況と閉塞感

累計発行部数が1億を超えているマンガは、4億の『ONE PIECE』をはじめ、2億を超える『ドラゴンボール』や『NARUTO』、『名探偵コナン』など長年連載を続けてきたものがほとんどです。

鬼滅の刃』は、わずか4年3カ月で連載終了としたマンガでありアニメ化も半年でしたが、短い期間で圧倒するヒットを遂げたことが判ります。

全てのマンガがアニメ化されたからといって爆発的なヒットとなるとは限りません。 そこには『鬼滅の刃』をヒットに押し上げた背景があります。

その1つはコロナ禍の状況が考えられます。

2020年2月22日、渋谷のスクランブル交差点をマスクを着けて歩く人々
写真=iStock.com/rockdrigo68
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今年の3月以降は世界的に新型コロナウイルス感染問題が進行し、日本も理不尽な状況に苛まれて閉塞感が増していきました。『鬼滅の刃』のストーリーは、鬼という厄災に巻き込まれて生き死にを懸けて戦うものであり、理不尽極まりない状況が描かれています。

コロナ禍によって変化するどうにもできない理不尽さと『鬼滅の刃』の鬼という理不尽さを重ね合わせて見ることも後押しした背景であると考えられます。

しかし、それだけでもないと推察できるのは、過去に何か不幸が起こったときにはやっていたマンガやアニメが必ずしも爆発ヒットをしたとも限らなかったからです。

「大人」がハマった

注目したい背景のもう1つは、スマートフォンを日常的なツールとしている人たちが格段に増えている時代であることです。

これは、配信プラットフォームを多くすることとSNS戦略にプラスの影響を与えました。 『鬼滅の刃』のヒットは、従来の週刊誌購読者だけで支えられているものではなく、アニメ化以降の新たなファン層によって支えられています。それは、小中学生ではなく「大人」です。アニメ化がヒットのきっかけであったことは、累計発行部数からもわかります。

アニメが良かったから、週刊誌を読んでいなかった層がコミックスを購入するという流れが出来上がったのです。特に「大人」はコミックスも「おとな買い」をします。この新たな層の多くは、テレビ放送時のリアルタイムではなく配信でアニメを視聴しています。時折、特集を組んで一挙配信するプラットフォームもあり、スマートフォンでも観る機会が数多く得られています。コロナ自粛のときに一気に観たという人も少なくありません。

「いつでも、どこでも観ることができる」という状況を用意した戦略は、確実にファンを拡大させていきました。

アニメの製作と販売促進は、アニプレックスとufotable、集英社の3社によって行われており、それぞれのTwitterやInstagramにおける情報発信は連日投稿されています。

加えて、芸能人などインフルエンサーの『鬼滅の刃』ファンがTwitterを上げると話題となり、SNS上で目にすることが多くなりました。こうした情報は、原作コアファン→アニメファン→知らなかった人の興味拡大というバンドワゴン効果(話題になっているから気になる)をもたらしました。

数年前と比べてSNSを情報収集のメインとする人は増えており、一定層への情報発信はテレビCMよりも効果があると実証検証されている報告もあります。

そして、アニプレックス等はメインキャラクターの声優をMC起用して、インターネット番組やラジオ番組を配信しており、SNSでの幅広い情報拡散を得ています。

このように、現在ではスマートフォンを日常のツールとする層には、インターネットを通じた情報発信と配信がより効果を持つ時代となっており、短期間でヒットを遂げる背景の1つと考えられます。