“初の自伝”『ペルソナ』(講談社現代新書)が話題の脳科学者・中野信子氏は、「ポジティブ心理学が嫌い」だと語る。「理想的なあるべき姿」を描きすぎ、そこに禍々しい明るさ、胡散臭さを感じるのだという。「正しさ」「ルール」に思考停止し、翻弄されて生きる人間の滑稽さを白日の下にさらけ出す、同書の一部を特別公開する。(第2回/全2回)

※本稿は、中野信子『ペルソナ』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

人間が「個人的な思い込み」に縛られるワケ

人は、自分がこういう人間だ、と認知の中に像を結んでしまうと、それを変えることがなかなかできない。状況が変わって、違和感を覚えたり、不本意で居心地悪くなっても、その姿を最後まで貫こうとしたり、無理してでも貫き通したほうが美しいと感じたりする。

母親だから頑張らなくちゃ、だとか、男子たるもの、涙を見せるべきではない、だとか。自らの立場をひとたび明確にし、それにコミットしてしまうと、途中で変更することにストレスを感じてしまうのだ。

これを、人の心理における、一貫性の原理、という。

マスクの裏で
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「一貫性の原理」という謎の機能

何か自分で決めたことを最後まで貫くことができないと、自分を情けない、醜い存在だとみなすようになってしまう。もしかしたらある程度の年齢以上の人なら周りにそういう人がいるかもしれないが、特定の思想の持ち主だった人が「転向」すると、必要以上に反動が起きたり過剰に自虐的になったりする。

なぜ人間にそんな性質があるのだろう?

一貫性がないと困る、という一見不必要な制約が、脳に備え付けられているのだとしたら、それはどんな目的のためなのだろう?

この答えは、残念ながら脳科学的にもまだクリアにはなっていない。