※本稿は、加谷珪一『日本は小国になるが、それは絶望ではない』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

2020年3月18日、ウクライナ・キエフのカフェに手指消毒剤が置かれている
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非常時には国家のエゴが丸出しになる

今回の感染拡大では、マスクや医療用ガウン、人工呼吸器、消毒用アルコールといった資材の不足が深刻化するという問題が発生しました。

感染拡大が本格化してきた2020年2月以降、全国的にマスクが手に入らないという状況が続き、各地のドラッグストアでは、ごくわずかなマスクを求めて長蛇の列ができたり、開店と同時に消費者が商品を奪い合うという、前代未聞の光景が繰り広げられました。

医療用ガウンの不足も著しく、大阪市では、医療用ガウンの代わりに用いるため、市民に対して「雨がっぱ」の提供を呼びかける事態となりました。このほか消毒用アルコールも不足し、とうとう厚生労働省は医療機関などに対して、アルコール濃度の高いお酒を消毒液として代用することを認める決定を行っています。

このような非常時には、国家のエゴが丸出しになるというのが厳しい現実です。

中国政府は一時、医療用資材の輸出を制限していましたし、ドイツ政府も同じく医療用マスク、手袋、防護服などの輸出を禁止する措置に踏み切りました。この措置については米国などが猛反発したことから、一部は解除されましたが、米国もイザとなれば、自国製品の輸出を制限する可能性が高く、各国は必要に応じて強硬な措置を講じてくることでしょう。

国内では一連の資材不足は海外に依存してきたツケであるとして、国内生産を強化すべきとの意見が出ています。

この意見はまさに正論であり、安全保障上、こうした物資については必要に応じて国内で調達できるようにしておくのが理想的です。しかしながら、「国内生産を強化せよ」と口で言うのは簡単ですが、実現するのは容易ではありません。

なぜ、ドイツはマスクの国内生産を維持できたか

マスク不足については、直接的な理由は中国からの輸入依存度が高かったことですが、これには明確な理由があります。

価格の安いマスクを日本で作っても採算が合わないため、ほとんどのメーカーは中国からマスクを輸入していました。もしこれを日本産に切り換える場合には、高いマスクについて日本の消費者が許容する必要がありますが、現実には高いマスクばかりでは消費者は商品を買ってくれません。では、ドイツはなぜマスクの国内生産を維持できたのでしょうか。

世界全体の市場を見た場合、マスクに用いる不織布は中国がトップシェアですが、ドイツも高い輸出シェアを確保しています。またドイツは、医療用の高度なマスクについても高い競争力を維持しています。価格の安いマスクについては中国など新興国に任せていますが、高付加価値の製品については引き続き、自国で製造を行っているのです。

ドイツの工業は基本的にすべてが高付加価値分野となっているのですが、日本は一部の企業を除き、依然として薄利多売のビジネスを続けており、中国など賃金が安い国とコスト勝負する結果になっています。