定年後も相変わらずの「メシ、フロ、ネル」にうんざりする妻

それでもお金を稼いで生活を支えてくれる人だから一応立てたり、譲っておこうという気持ちが妻たちにはあった。

「でも老後生活になっても相も変わらず自分中心の発想とやり方で、『メシ、フロ、ネル』と上から目線で言われると、昔の恨みも加わって無性に腹立たしい。たまに地雷を踏んで熟年離婚まっしぐらになりかねないケースは多々あります」と宮本さん。

「夫は外で仕事に勤しみ、妻はしっかり家庭を守る」という昭和期までの家庭のあり方は、家事能力がなく、生活面で自立できない男性たちを量産してしまった。この世代の男性たちが定年になって家庭に回帰したところで、妻は困惑するばかりだ。

私の知人は六〇歳になったとき、「主婦は卒業します」と、夫に宣言した。料理も掃除も自分の分しかやらない。それ以来、卒婚状態にあるのだが、「わが家はシェアハウス」と笑い飛ばしながらも、同居生活を続けている。経済的なことを考えるとそのほうが賢いと言えるだろう。

七〇代の知人男性に話を聞いてみた。彼はすでにリタイアしているが、妻は医者でフルタイムではないがいまも働いているのだという。

「だから、自分で料理も作るし、家事もひと通りこなすよ。夫は仕事、妻は専業主婦という家庭では、定年になった夫の食事を作らなければならないと、『やってられないわ』となるのだろうけれども、ウチはそんなことはないね」

リタイア後に楽しく暮らせる人はいわゆる「おとな」な人

街頭インタビューをした八〇歳の男性も、妻が週二回のパート勤めをしているので、部屋やトイレ、浴室の掃除は自分でも行っているという。米国の航空会社に勤務して、最後のほうはフルタイムではないが七五歳まで仕事をしていたというから、おそらくそれなりの役職にあった人なのだろう。

「妻はパートで稼いだお金で年二~三回海外旅行に行っています。すでに三〇カ国行っていて、いまはカンボジアに行っている。僕は仕事でさんざん外国に行ったのでもういい。むしろ国内でのんびりした旅のほうがいいね」

宮本さんの友人にはリタイア後の現在も、実に楽しげに暮らしている男性たちがいるという。功成り名遂げたトップもいれば、社長、会長職を勇退した人もいるが共通項は、「ものすごく頭が柔らかくて受容力が高い。ひとり暮らしが長くて家事、炊事何でもできる。家族を大事にする(海外赴任中は毎日絵はがきを出し続けたという愛妻家もいた)」ことだという。視野も広ければ人の話もよく聴ける、いわゆる“おとな”なのだろう。「退職して何をやりたい?」の質問に、「孫と鉄道のジオラマを作る」、「憧れのピアノを初歩から習う」と顔に似合わないことを言ったそうだ。自己肯定感がある人は他者に寄りかからないのである。

「四〇代以下の世代になると共働き夫婦があたりまえになってくるから、ずいぶん違う」と、宮本さんは語る。

「息子がうちに来て帰った後は、かえって部屋がきれいになっているの。孫二人が散らかした後を片づけて掃除機をかけて、食器を洗って、汚したものを洗濯して干して撤収。イクメンだし、家事の段取りや手際の良さはわが息子ながら感心します」