バブル期のような頭数の確保を最優先した時代とは違って、いまでは各企業ともに基準に満たない人材は採用しない方向へ動きつつある。しかし、それでも人事部には最低限必要な人材を確保せよとの暗黙のプレッシャーがかけられる。だから、就職説明会や面接の場で「あなたのやりたい仕事ができる」「自己実現をしよう」などというリップサービスの言葉がつい口から出てしまう。

「ゆとり世代は自分たちの夢をかなえてくれるディズニーランドかのように会社を考える傾向が強い。しかし、会社にはミッキーマウスもドナルドダックもいない。その現実をきちんと教えて、お客さま意識を抜くことが大切だ」と就職支援や人材育成事業を行っているじんざい社の柘植智幸社長も釘を刺す。

ゆとり世代が共通して持つ意識に「自分は特別」ということがある。核家族化した家庭内ではコミュニケーションの機会が減り、親が叱ることが少なくなった。個性重視の教育に転換した学校では、何か欠点があっても個性として尊重してしまう。相対評価から絶対評価に変わったことで、競争することも少なくなった。その結果、「ナンバーワンにならなくても、自分の世界のなかでオンリーワンであればいいといった偏向した“自己愛”が身に付いてしまう」(公立大講師)のだ。

だからよけいに「自分らしさを活かせる職場」というキャッチフレーズは、ゆとり世代に心地よく響くのだろう。しかし、現実の社会は能力的な欠点を個性として認めてくれるほど甘くない。「それに早く気づかせて、自立できる人間、自省のある人間を育てられるかが、ゆとり世代を戦力化できるかどうかのポイントだ。ただし、彼らはストレス耐性が低く、がんがんやりすぎると萎えてしまうので注意が必要になる」と柘植社長はいう。

そうしたなか着実に成果をあげているのが、10年前ほどから「バンダイアドベンチャープログラム」という独自の研修メニューを導入したバンダイだ。入社後の2泊3日の合宿では、10人強のチームに分かれる。そして、棒やタイヤなど与えられた部材を使って乗り物を作り、制限時間内に一番早くゴールに到達できるかなどを競う。そのなかで個々人の役割や責任を認識させていくのだが、合宿後にゆとり世代もスムーズに職場の仕事に溶け込んでいるという。

(宇佐見利明=撮影)