秋田県は日本で初めて人口の半数以上が50歳を超えた「超高齢社会」だ。ロンドンの経済学者はその事実に驚き、世界で9つの「極限経済」のひとつに取り上げている。俊英を驚かせた秋田の現状とは――。(第1回/全3回)

※本稿は、リチャード・デイヴィス『エクストリーム・エコノミー 大変革の時代に生きる経済、死ぬ経済』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の一部を再編集したものです。

雨の日の角館武家敷通り
写真=iStock.com/CHENG FENG CHIANG
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建設作業員、タクシー、ホテルの客室係や料理人もみな高齢

日本では、秋田は大都会から離れたのんびりした場所と見る人が多い。大雪と寒さと、温泉やふさふさの毛が特徴の大型犬(秋田犬の一種)、日本酒などが名物だ。秋田は、日本で最も高齢化が進んだ地域でもある。平均年齢が52歳に達し、日本の都道府県のなかで初めて人口の半数以上が50歳以上、3分の1以上が65歳以上に到達した。

秋田を訪れたら、すぐにそうした数字が現実であることに気づくはずだ。電車の運転士も改札係も、観光センターの係員、レストランで食事をしているふたり連れ、給仕をしているウェイトレス、建設作業員、タクシードライバー、ホテルの客室係や料理人もみな高齢なのだ。

人口統計に照らせば、秋田は「のんびりした場所」どころか、日本、いや世界の最先端、未来を先取りした場所である。世界は急速に高齢化しつつあり、多くの国が秋田のあとを追っている。韓国は現時点では日本のうしろにいるものの、日本よりも高齢化が加速していて、2050年には両国ともいまの秋田に似た姿、平均年齢が52歳に達し、人口の3分の1が65歳を超えると予測されている。

世界で最も人口の多い中国は、同じころには平均年齢がいまの37歳から50歳近くに上昇している。ヨーロッパではドイツ、イタリアが先頭を走り、30年以内にはいまの秋田に近い人口統計になると言われている(イギリスとアメリカの高齢化はやや遅いが、その方向に進んでいることにちがいはない)。ブラジル、タイ、トルコも急速に高齢化が進んでいる。この傾向が見られないのはコンゴなど、きわめて貧しい国だけだ。現在、世界人口77億人のうち85パーセントが、平均年齢が上昇している国に住んでいる。

ほぼ世界全体が、秋田のような社会に向かっている

ほぼ世界全体が、秋田のような社会に向かっていると聞けば、多くの人が不安を感じるだろう。高齢者が増えると、年金や医療費といった公的コストも増え、各国の政府は資金をどうにか調達しなければならない。この経済的重圧を、国際通貨基金(IMF)は「豊かになるまえに国が老いる」と警告する。

2017年に私は秋田を旅し、超高齢社会という極限経済(エクストリーム・エコノミー)のなかで、老いが暮らしにどのように影響しているのか、老若男女さまざまな人から話を聞いた。この章では、超高齢化が政府の財源だけでなく、もっと深いところに織り込まれた非公式経済に与える試練についても述べたい。

近未来の老いた社会では、非公式経済や伝統をうまく生かしながら経済上の問題を解決していくのだろうか。それとも、生き残りのために互いをつぶし合い、破綻への道を進むのだろうか。