「QRコード発行」はセルフオーダーシステムの主流だが…

店側が発行するQRコードを顧客がスマートフォンで読み取るセルフオーダーシステムで中小企業が特許を取得し、同様のシステムを提供している企業の多くが特許を侵害している可能性がある。筆者はこの特許の出願代理人であり、本来なら論評を差し控えなければならない立場だが、特許権者の利益を保護する観点から事実を明らかにしたい。

セルフオーダーのイメージ。スマホでQRコードを読み取る
写真=筆者提供
セルフオーダーのイメージ。スマホでQRコードを読み取る

特許をもつ中小企業は、東京・中野で居酒屋「魚せん」を運営するQueens Japan株式会社(代表取締役:小泉繁樹氏、以下Q社)。今春に2件の特許を取得しており、その1つは「店側が発行するQRコードを顧客自身の携帯端末で読み取ることでオーダーが可能なシステム」、もう1つはこれをベースとしつつ「顧客の要求に対応した広告表示を行うことが可能なシステム」だ。

QRコード発行は、現在のセルフオーダーシステムの主流となっており、同様のシステムを提供・運用している企業は多い。これまで係争に発展していないのは、同社が特許取得の事実をホームページで告知するだけで、利用の差し止めや特許料の徴収に動いていないからだ。

店舗売却の資金を注ぎ込み、数億円をかけて開発

Q社の小泉代表は筆者に対し、特許権を売却する方針を示している。首尾よく売却できれば、特許係争は新たな特許権取得者と同業他社に引き継がれ、業界地図を塗り替える可能性が高い。

Q社が取得した2つの特許のうち「QRコード発行」は印刷物だけでなく、店舗内の専用端末への表示も含まれる。また、もう1つの特許は「店舗の運営管理システム」「広告画面表示とポイント付与のくじ引き」「多言語対応」「軽減税率対応」「顧客が利用する各種決済サービスとの連動」など多岐にわたる。飲食店の問題解決を図ったシステムであるため、興味・関心のある企業は多いと考えられる。

同社は2017年に同システムを開発、特許を出願していた。これまでに居酒屋を7店舗経営し、いずれも繁盛していたが、店舗売却の資金を今回のシステム開発に注ぎ込み、約7年間をかけて開発にこぎ着けた。投じた費用は数億円に上る。飲食店経営の経験から「顧客も店も、無理なくスムーズに行えるセルフ注文システム」を目指した。