「ティーサロンが減った理由」を、元ドトールコーヒー常務でフードビジネスコンサルタントの永嶋万州彦氏に聞いたことがある。同氏はこう解説した。
「昔に比べてコーヒー好きの女性も増えました。紅茶がおいしい店は、気のきいたスイーツやサンドイッチなど、サイドメニューの上品さ、上質な雰囲気が求められたのです。だから百貨店との相性もよく、館内にティーサロンがあります。しかし働く女性が一般的となって忙しく、平日の昼間に紅茶でゆったり過ごすという生活習慣も減りました」
紅茶の老舗は女性客が約8割を占める
筆者は学生だった1980年代、東京・青山のティーサロン(現在は閉店)でもアルバイトをした。欧米の高級洋食器で飲食を提供し、1杯650円のロイヤルミルクティーや900円前後のサンドイッチの注文がよく入った。常連客には、近くのカルチャースクールでの受講を終えた主婦が多く、滞在時間も長かった。
その後もずっと飲食店の興亡を見てきたが、現在は女性の社会進出もあり、ティーサロンも上質よりも気軽さ、フードメニューは軽食よりもしっかり取れる傾向に変わった。
それを象徴する店が東京・渋谷にある「ケニヤン」だ。昭和時代からセイロン産などオリジナル紅茶をそろえ、パスタやドリアなどフードメニューも人気だ。9月上旬に訪れたが、コロナ禍でも入れ替わりでお客が訪れていた。創業40年を超える老舗で女性客が約8割を占める。店内は入店しやすい雰囲気となり、ドリンクのテイクアウトも行う。老舗店も時代を意識している。
こうした時代の変化に前述のタピオカ流行が加わり“茶系再び”になったと思う。
ウィズコロナは「生活文化」を変えるチャンス
カフェが茶系に注力する理由として、「消費者の健康志向」も指摘したい。
例えば、冒頭で触れた茶生産量の他にも、国内の飲料市場における「無糖飲料製品構成比」が「2019年は約49%」となった(全国清涼飲料連合会調べ)。無糖の炭酸水の伸びが目立つが、むぎ茶飲料も伸び、緑茶飲料も手堅い。
店で出す茶系も、以前からハーブティーなど身体によさそうなメニューが目立つ。
茶系に力を入れる各社に残された課題は「生活習慣」を変えることだ。多くの消費者は朝からコーヒーを飲む。日本では、紅茶は優雅な「アフタヌーンティー」のイメージもあり、朝のイメージは薄い。
ウィズコロナが続く現在は、そうした生活文化を変えるチャンスだ。リモートワークで、いつもと違う朝の飲料で気分転換を図る人もいれば、外出時のカフェでも違うメニューを頼んでくれるかもしれない。大手カフェが展開すると、メニューの多様性も増す。
コンビニコーヒーの拡大や定着もあり、コーヒー系が注目されてきたが、今後はティーにも注目が集まりそうだ。本質を考えて訴求する店が増えれば、潮流も変わるだろう。