科学について書かれた作品を読むとき、ぼくはまず「その本が多様な学問分野を俯瞰したものになっているかどうか」に注目します。
例えば、生物・数学・物理・人類学など、それぞれの本にはテーマがあります。しかし、一つの専門分野について細かく書かれているだけでは、万人には薦められません。
楽しく読める科学書のポイントは、その著者が自身の専門分野を核としながらも、他の学問の知見を網羅的に取り入れた描写をしているかどうか。さらに言えば、科学が専門分化する以前の「博物学」のように、あらゆる学問が面白く詰め込まれている作品であるかどうかです。
小学生や中学生だった頃は、どんな人でも理科が好きだったのではないでしょうか。理科室で興味を引かれた実験や、教科書で読んで不思議だと感じていたこと――。優れた科学書は当時の興奮を呼び起こしてくれるはずです。『生命40億年全史』は、生命誕生から40億年の歴史を一冊に詰め込んだ本です。生き物はどのような環境に住み、なぜ進化してきたのか。当時の地球の空気の匂い、海の色、大地の硬さまで克明に描かれています。
さらに古生物学者である著者は、どうやって生命の歴史を調べるのかについても、体験を通じて紹介しています。研究の進展や失敗と生命史や地球史の流れが一体となったドキュメントとなっており、まさに「博物学」の面白さがある一冊です。『銃・病原菌・鉄』は、人類史をテーマとした作品。約1万3000年の人類史において、気候・風土と文化・文明が分かちがたい関係にあったことを論証しています。本書の冒頭で、生物学者としてニューギニアで調査していた著者は、現地の人間にこう問いかけられています。
「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」
著者は「人種による優劣」という通説を退け、その答えを「地理的要因」に求めます。タイトルの「銃・病原菌・鉄」とは、その中でも象徴的な要素です。著者は、火薬や冶金、畜産、農業、医学など、広範な知識を操りながら人類史を検証しています。手垢のついた歴史であっても、科学の目を通すと全く新しい世界が開けてくる。そのことを教えてくれる一冊です。