一方、公務員の生涯賃金を大きく左右する天下りについても、政権公約の「天下りの根絶」は、実効性がきわめて怪しい。
政権交代直後、仙谷行革相(当時)は、「独立行政法人の役員は公募すべき」とした。第一弾の09年10月の公募では、50ポスト中、16ポストは官僚OBが就き、33ポストには民間人が就いた。厚労省の一ポストは長妻昭厚労相(当時)により廃止された。しかし、これに対して官僚が防衛策を講じた。
役所を退職して独法などに移籍する従来の天下りを止めるかわりに、役所に在籍したまま独法の役員に出向する仕組みに切り替えたのだ。役員として出向するならば、ポストの公募は不要としたのである。さらに民間企業への現役出向も増やすという。しかも出向期間は公務員としての退職金算定期間に繰り入れるため退職金総額も増える。
実は、民主党政権になって、天下り根絶どころか6つの独立行政法人が新設されている。2010年秋には、大物独法の改革ゆり戻しの動きも明らかになった。
UR(都市再生機構)は都市に団地をつくるという歴史的な使命を終え、2010年度中に組織の見直しをすることになっていた。前原誠司国交相(当時)も「解体的な見直しが必要」としていた。だが政府の有識者検討会は、廃止・民営化論を退け、公的関与を維持するべきと答申。馬淵澄夫国交相は、答申を追認する構えを見せている。
2010年10月、参院予算委員会に経済産業省の現役官僚が政府参考人として呼ばれた。2009年まで国家公務員制度改革推進本部の審議官だった古賀茂明氏である。現役官僚が所管業務と直接関係ないテーマで発言するのは異例のことだ。
「民主党内閣は現役出向は天下りではないと説明していますが、これは天下り根絶というマニフェストと反するのではないか」(みんなの党・小野次郎参院議員)
古賀氏は「個人的な見解だが」と断ったうえで話した。
「天下りがいけないという理由は2つあると思います。一つは、天下りによってそのポストを維持するための無駄な予算がつくられる。それから、民間企業などを含めて天下り先と癒着が生じる。その企業あるいは業界を守るための規制は変えられないといったことが起こる。(現役出向でも)まったく同じことが起きる可能性がある」
仙谷官房長官は言い返した。
「古賀さんの上司として一言、話をさせていただきます。こういう場に(官僚を)呼び出すやり方は、甚だ彼の将来を傷つけると思います。優秀な方であるだけに大変残念に思います」
まるで、報復人事を匂わせるような恫喝だ。議場にはヤジが飛んだ。仙谷官房長官は後日、「不適切だった」と謝罪した。
なぜ参考人招致に応じたのか。古賀氏に聞いた。
「僕は霞が関をこわしたいのではなく、むしろ再生したいんです。今の流れは、高齢化した公務員の既得権を擁護するだけ。これでは本当に国民のために働きたいと思っている優秀な若手が育ちません」
国家公務員ではこの1年間に、1590人に早期勧奨退職が行われ、2人を除いて応じた。再就職先が決まっていなければ、応じるはずがない。だが政府の公式見解では、「社保庁廃止に伴う65人と若年定年の自衛官77人を除き、全員自力で再就職した」としている。
自民党の河野太郎衆院議員から、「再就職の斡旋があったのではないか」との質問を受け、片山善博総務相は、暗に非公式の斡旋、いわゆる「裏下り」の存在を認めている。
「以心伝心とか、問わず語りとか、そういうものはあったのではないか」
みんなの党は、「公務員制度改革を徹底すれば年間2兆円を削減できる」と試算している。現在、国会は参議院で野党が過半数の議席を握る「ねじれ」の状態にある。給与法や国家公務員法の改正をめぐっては、国会の紛糾が予想される。
与党時代に公務員制度改革を果たせなかった自民党が、下野してから民主党を批判するのも無責任な話だ。だが、裏を返せば、いかに官僚・労組側が巧みに改革を阻んできたかという証拠でもある。
民主党の関係者はこう明かす。
「事業仕分け後、廃止や縮減を求められた天下り団体の労組から、連合を通じて次々に党に陳情があり、行革は反故にされた」
しかし労組と近い小沢一郎衆院議員が代表選で敗れた後も、改革が進む気配はない。菅首相はすっかり官僚に取り込まれている。また首相以上の権勢を振るう仙谷官房長官も、選挙では連合の厚い支援を受けてきた。
政権交代ぐらいでは、官僚支配の構図を変えることはできないということだろう。しかし、国家財政の危機が深まるなかで、民間の常識とはかけ離れた「役人天国」がいつまでも続くはずもない。給与法改正案では、みんなの党は前年比で最大11.5%減らす対案を提出する方針だ。民主党は対抗できるのか。国会の動向から、目を離せそうにない。
※すべて雑誌掲載当時