心筋梗塞のリスクを高めるのは離婚だけではなく、結婚生活で不満を持ちながら暮らし続けることも大きく関係する。アメリカのギャロらがアメリカ人女性390人を対象に動脈硬化が認められるのかを調査したところ、結婚に満足している女性は22%なのに対し、結婚していない女性では32%、結婚に満足していない女性では34%と、その頻度に大きな差があった。

動脈硬化が認められなかった女性に対して、その後3年間の動脈硬化の新規発生率を調査したところ、結婚に満足している女性の6.3%に対して満足していない女性は16.3%と倍以上の差があった。興味深いことに結婚していない女性では8.8%と、満足している女性の値に近かった。以上より、結婚生活への不満やストレスは動脈硬化を引き起こす原因になると考えられている。

生きがいのない人は長生きできない

「生きがい」があることで寿命が延びることは、私たちの研究グループが1994年に行ったアンケート調査と、その後の追跡調査でわかった。この調査は宮城県大崎保健所管内の40歳から79歳までの約5万5000人(回答者は5万2000人)を対象に、生活習慣などのアンケート調査を実施し、それ以降も生存状況を調査し続けた。そのアンケートのデータの中から「生きがい」に着目し、その後7年間の死亡率を比べてみた。

生きがいが「ない」人の死亡リスクは、「ある」人の1.4倍

アンケートでは、「あなたは『生きがい』や『はり』をもって生活していますか」という質問に対して、「ある」「どちらともいえない」「ない」の3つから選んでもらった。7年後の結果は、生きがいが「ある」と答えた人を基準にすると、「どちらともいえない」と答えた人では死亡リスクが1.1倍、「ない」と答えた人では1.4倍に上がっていた。死因別では、生きがいが「ない」と答えた人で死亡リスクが上がっているのは、循環器疾患が1.6倍、事故や自殺などの外因死が2.4倍であった。

同じアンケート調査では、「日常生活において大切だと思うものは何か」を対象者に聞いた。その後12年間にわたって生存状況を追跡したところ、「健康」より「仕事」を選んだ人のほうが長生きしていることがわかった。「仕事」と答えた人たちの死亡率は11%である。一方、死亡率が最も高かったのは「名誉」と答えた人たちで、死亡率は28%。実に2倍以上の開きがあった。

もう1つ、私たちの研究グループが2003年から10年以上追跡した別の調査で、「生きがい」と介護保険の認定状況を調べたものがある。これは、宮城県仙台市の鶴ケ谷地区の70歳以上の高齢者830人を対象にした調査だが、それによると、「生きがい」があると答えた人は、ないと答えた人より介護保険の認定率が低い(約半分)という結果だった。生きがいがある人は、寿命が長くなるだけでなく、「健康寿命」も長くなると言えるのだ。

寿命に影響をおよぼすものは、「生きがい」だけではない。「幸せ」「前向きな気持ち」「活力」「エネルギー」といったポジティブな感情をもつ人はそうでない人より死亡率は低い。たとえば、トロント大学の研究者が、映画のアカデミー賞候補のうち、実際に受賞した俳優と逃した俳優の双方を長期追跡したところ、アカデミー賞を受賞した俳優のほうが長生きしているという調査結果もある。受賞して「幸せ」を感じ、さらにポジティブな感情をもつことで、その後の生存率(死亡率)は変わってしまうのだ。

もっと突き詰めれば生きる意味をもつかもたないかで、健康や寿命に違いが出てくるのだろう。このことが生死におよぼす影響について考察したのが、第2次世界大戦中にナチスの強制収容所に送られ、死と隣り合わせの3年間を生き抜いた精神科医のヴィクトール・フランクルである。極限の体験をしたフランクルによると、生きる意味や人生の目的を自覚できた人たちこそが、過酷な収容所生活を生き延びられたのだという。人は常に「生きる意味」を探し求めている。

だから、人生を通じてなすべきことは何か、それにはどのような意味があるかを見出して、その達成に向けて取り組むことによって、心は癒やされていく。自分にとっての生きる意味、人生の目的がわかってくれば、それが生きる支えになるというのだ。ちなみに、日本語の「生きがい」という言葉は、フランクルの語る「生きる意味」と同じ意味をもつと考えてよいと私は思っている。