「権力闘争のおもちゃにされてしまって…」
その集大成ともいうべき究極の事例が、河井克行元法相と妻・案里が「公選法違反(買収)容疑」で逮捕されたことである。
安倍に批判的な溝手顕正を落とそうと、案里を強引に立候補させ、安倍自らが指示したとされる、自民党から1億5000万円を選挙費用として渡したのである。
河井夫妻は、その巨額なカネを地元の実力者たちに大盤振る舞いし、選挙のウグイス嬢たちにも違法に高い謝礼を払っていたのである。
逮捕前、案里は文春でノンフィクション・ライターの常井健一のインタビューに答え、「権力闘争のおもちゃにされてしまって、権力の恐ろしさを痛感します。(中略)岸田(文雄)さんと菅(義偉)さんの覇権争い、岸田派と二階派(案里氏の所属派閥)の争い、検察と官邸の対立……。そういう中で“消費される対象”として擦り減っちゃった」と告白している。
50近い女性が、安倍の掌で転がされていたと、今頃気づくとはお粗末だが、安倍の持ち駒の一つで、自分に累が及びそうになってきたので、切り捨てられたのは間違いない。
今のような低次元な政権がかつてあったか
私は、政治記者でも評論家でもないが、長く生きてきた分、永田町という魔界で蠢いてきた政治家たちを見てきた。
今の政権のような醜い低次元なものが、かつてあっただろうかと考えてみた。金権政治、ゼネコン政治と批判された田中角栄は、カネにモノをいわせて日本中を掘り起こして環境破壊したが、裏日本といわれていた新潟に上越新幹線を通すなど、情のある政治家でもあった。
佐藤栄作という政治家も国民から嫌われたが、実態はともかく、沖縄をアメリカから返還させた。小泉純一郎は、竹中平蔵と組んでやみくもに新自由主義を広め、派遣法を改正して非正規社員を激増させた。今日の格差社会をつくったという意味では、ろくなものではなかったから、現政権と近いかもしれない。
だがもっと似ている醜悪な政権を思い出した。第1次安倍政権である。
「美しい国づくり」というスローガンを掲げて登場したが、年金記録問題に象徴されるように、醜い国づくりに終始した。
また、佐田玄一郎国・地方行政改革担当大臣の事務所費問題、松岡利勝農林水産大臣の自殺、赤城徳彦農林水産大臣の事務所費問題、久間章生防衛大臣の「原爆投下はしょうがない」発言など、わずか1年の間に閣僚の不祥事・失言が多発した。
結局は、自身の病を理由に、政権をほっぽり出してしまったのである。