豊田章男「変化から逃げず、変化を受け入れるということを学んだ」

そして2番目が少年時代のストーリーです。

「少年の頃、タクシードライバーになりたいと思っていました。夢は完璧にはかないませんでしたが、きわめて近いことをしています。ドーナツより大好きなものがあるとしたら、それは車です」

子どもの頃から車が大好きだったというエピソードが語られます。

そして3つ目が、彼が社長に就任してからのストーリーです。

「私が社長になってからすぐに景気が後退し、東日本大震災も発生しました。リコール問題ではワシントンの公聴会で証言しなければなりませんでした。その時は、本当にタクシードライバーになっていればよかったと思いました」

ここでは艱難かんなん辛苦のストーリーが語られます。

「バブソンで過ごした日々で、変化から逃げるのではなく、変化を受け入れるということを学びました。みなさんも同じであってほしいと思います」

さらに、52歳でマスタードライバーになるための挑戦をしたと話します。

ここで語られるのは、タクシードライバーになりたかった少年が、バブソン大学で勉強に打ち込み、トヨタのCEOになった時に苦労にあいつつも、52歳の時にはマスタードライバーの訓練に挑戦するという車愛にあふれたストーリーです。

「では早送りして、みなさんが成功して、本当に大好きなことをしているとしましょう。CEOからCEOへのアドバイスをさせてください。しくじらないで。当たり前と思わないで。正しいことをやりましょう。年を取っても新しいことに挑戦してください。みなさんの時代が、美しいハーモニーと、大いなる成功と、たくさんのドーナツで満たされますように!」

砂糖のかかったドーナッツ2つ
写真=iStock.com/paci77
※写真はイメージです

最後に「ドーナツ」で締めるところが、またうまい。「ドーナツ」ということばが、メッセージを伝えるツールとして、あたかもクシで通してつなげている感じに仕立てています。

自分にしか語れないストーリーを発信していく力

以上、ここで語られるエピソードじたいは決して変わったものではありません。

けれども「自分だけのドーナツを見つけよう」というテーマに向かって、3つの体験がストーリーとして語られているため、聞き手の心と頭に焼きつくスピーチとなっています。

そして、このスピーチを聞いた卒業生たちやその家族たちは、トヨタという企業にも好感を抱いたのではないでしょうか。

あなたの肩書や資格よりも、実はあなたしか持っていない、あなたのストーリーが相手を動かす近道なのです。

リーダーは、その企業のブランドの顔でもあることをしっかりと認識し、自分のことばで、自分にしか語れないストーリーを発信していく力を備えておきたいものです。

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