米国の譲歩取り付けに必死の北朝鮮

見方を変えれば、北朝鮮はかなり追い込まれた状況にある。それが金与正氏の過激な発言につながっている。

金一族は、南北の連絡所を爆破することで韓国を揺さぶり、米国との対話を再開したいと考えているだろう。その上で北朝鮮は何とかして制裁の緩和など米国の譲歩を引き出したい。

現在の国際情勢を俯瞰してみると、米中をはじめ世界各国は自国の対応に手いっぱいだ。コロナショックによって世界経済は低迷している。IT先端分野を中心に米中の対立は先鋭化している。

米国では人種差別問題の深刻化からトランプ大統領の支持率が低迷した。ボルトン前大統領補佐官の暴露本の出版を差し止めようとするなど、トランプ大統領は再選への危機感を募らせている。新型コロナウイルスの感染再拡大や中国経済の減速によって、韓国の社会・経済情勢も悪化している。

その中で北朝鮮が強硬姿勢を鮮明にすれば、多くの国が北朝鮮の核開発などに危機感を募らせる可能性がある。核のリスクがある以上、軍事的な対応は極めて難しい。米国は北朝鮮との外交交渉の再開を検討することになるかもしれない。

北朝鮮は、なんとかして米国の譲歩を取り付けたい。その第一弾として、北朝鮮は南北のホットラインを遮断し、連絡事務所を爆破する行動に出た。

中国は「朝鮮半島の平和と安定を望む」

一方、金王朝の庇護者の役割を担ってきた中国は、北朝鮮の腹の内をそれなりに理解しているように見える。それは、中朝の双方の発言から確認できる。

近年、北朝鮮は中国に相応の敬意を示してきた。5月には金正恩委員長が習近平国家主席に親書を送った。軍人出身で核開発を進める考えを表明した李善権(リ・ソングォン)外相は、中国が香港に国家安全法の導入を支持している。

そうした関係があるからこそ、中国は今回の事務所爆破に関して北朝鮮を名指しで非難してはいない。中国政府は連絡所爆破に関して「朝鮮半島の平和と安定を望む」と述べるにとどめている。

中国が圧力をかけているのは、むしろ韓国だろう。中国が朝鮮半島という表現を用いた背景には、米朝の対話が進み朝鮮半島情勢が落ち着くよう韓国が動かなければならないとの考えが読み取れる。