新型コロナウイルスの影響で困窮する外国人留学生の様子を、マスメディアが相次いで取り上げている。その多くは「美談」として報じられているが、ジャーナリストの出井康博氏は「新聞やテレビには、アジア新興国の留学生に触れたくない『不都合な事情』が存在する」という――。
新型コロナウイルスに関する情報について、平易に書かれた資料を使って留学生に説明するインドネシア人スタッフ(左)
写真=時事通信フォト
新型コロナウイルスに関する情報について、平易に書かれた資料を使って留学生に説明するインドネシア人スタッフ(左)=2020年5月9日、東京・銀座

「困窮留学生」がよく取り上げられているが…

新型コロナの影響で苦しむ「困窮留学生」を取り上げる大手メディアが増えている。NHKや朝日新聞は、留学生に対して広がる支援を美談として報じた。

新型コロナで帰国できず 困窮する外国人留学生に支援広がる|NHKニュース
失ったバイト、途絶えた仕送り 困窮留学生に広がる支援|朝日新聞デジタル

新型コロナウイルスの感染拡大は、在留外国人の中でとりわけ留学生に影響が及んだ。上記の報道にもあるように、アルバイトを失った留学生も少なくない。そんな彼らを支援する方々には頭が下げる。

ただし、留学生の受け入れ現場を長く取材している筆者には、大手メディアの姿勢には強い違和感を覚える。「美談」を伝えるのは構わないが、「困窮留学生」を生んだ根本的な要因には全く触れていないからだ。

知られたくない「不都合な事情」がある

法務省によれば、留学生の数は2019年6月末時点で33万6847人に達し、安倍晋三政権が誕生した12年末から16万人近く増えている。同政権が「留学生30万人計画」を「成長戦略」に掲げ、留学生の受け入れを増やしてきた結果である。

こうした留学生の急増は、アジア新興国出身者の流入によって巻き起こった。ベトナム人留学生は12年末と比べて9倍以上の8万2266人、ネパール人留学生は約6倍の2万8268人にも膨らんでいる。

一方、NHKが取り上げたコロンビア出身の留学生は、わずか140人しかいない。「困窮留学生」は、ベトナムなどアジア新興国出身者にも大勢いる。にもかかわらず、なぜ「コロンビア人留学生」だったのか。その背景には、アジア新興国出身の留学生に関し、大手メディアが触れたくない「不都合な事情」が存在する。