しかも偽装留学生は、2つ以上のアルバイトを掛け持ちする。「週28時間以内」の法定上限を守ってアルバイトをしていれば、借金を返済し、翌年分の学費を貯めることなどできないからだ。

この違法就労の問題が、日本人の目に触れにくい偽装留学生たちを、さらに「不可視な存在」としている。違法就労への後ろめたさから、日本語学校やアルバイト先で人権侵害を受けても、耐えざるを得ない状況に追い込まれるのだ。

NHKがあえて「コロンビア留学生」を選んだ理由

こうした複雑な事情があるため、大手メディアは偽装留学生の問題を深掘りしようとしない。NHKのニュースでも、「30万人計画」の実態には一切触れてはいない。取材対象が「コロンビア人留学生」だったのは、単なる「偶然」だとは筆者には思えない。NHKは「美談」として報じるため、ベトナムなど新興国出身者を避け、“偽装”の可能性が低いとみなすコロンビア人を選んだのではないか。

朝日の記事にしろ、取り上げているのはタイやアフガニスタン出身の“少数派”の留学生たちだ。また、彼らが通う「立命館アジア太平洋大学」は、偽装留学生には高嶺の花のエリート校である。これでは本当の「困窮留学生」の姿は伝わらない。

朝日は4月末にも「困窮留学生」問題を報じている。(「ポテチも買えない…」コロナ禍、外国人留学生の困窮|朝日新聞デジタル)コロナ禍でコンビニのアルバイトを失い、困っているバングラデシュ人留学生の話である。母国で「養殖業」を営む母親からの仕送りが途絶え、所持金が7000円しかなくなったため、好きな「ポテチ」もがまんしているのだという。

読者は留学生に対し、憐憫れんびんの情を募らせたに違いない。記事の目的もそこにあったのだろう。しかし、筆者が長年取材してきた新興国の留学生たちには、母国から仕送りのある者などごく少数しかいない。そもそも、記者が上から目線で憐れんでみたところで、「30万人計画」の構造的な欠陥まで指摘しなければ、問題の本質は見えてはこない。

新聞配達を留学生に頼る朝日は深入りできない

実は、朝日には留学生問題に深入りできない理由がある。自らの配達現場で、留学生の違法就労が常態化しているのだ。(睡眠3時間で週休1日“朝日奨学生”の過酷|PRESIDENT Online)違法就労に加え、残業代の未払いまで強いられる留学生は、「困窮留学生」にも増して憐れむべき存在である。しかし朝日が配達現場の留学生について報じたことは一度もない。そして違法就労などの問題も現在まで改善されてはいない。