ソフトバンクの投資ファンド「15社が倒産する可能性あり」

近年、ソフトバンクグループはIT先端分野を中心に、成長期待が高いスタートアップ企業などに投資を行ってきた。それを象徴するのが、サウジアラビア政府などの出資によって組成された10兆円規模の“ビジョンファンド”だ。

2020年3月期決算において、このファンドを中心に損失が発生し、ソフトバンクグループの連結純損益(国際会計基準)は9616億円の赤字に陥った。純損益の赤字は15年ぶりで、赤字幅は過去最大だ。営業損益は1兆3646兆円の赤字で、IT関連を中心に88社に投資しているビジョンファンドの巨額の投資投資損失を計上した。

ビジョンファンドは88社の投資先の約6割、50社の企業価値が下がり、年間で1.8兆円の投資損失が出た。ソフトバンクグループの創業者である孫正義氏は投資先の経営悪化について、「ユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)がコロナの谷に落ちた」と表現した。

その背景にはコロナショックがある。ワクチンなどが開発段階にある中、世界各国は感染の拡大を防ぐために国境や都市を封鎖し、人の移動を制限せざるを得なくなった。それが、需要と供給を寸断し、収益の減少や資金繰りの悪化などから同社の投資先企業の価値が下落してしまった。

新型コロナウイルスの感染拡大によってライドシェア需要が落ち込み、ライドシェアアプリ大手の米ウーバーテクノロジーズの業績が悪化した。3月には、コロナショックによる資金繰りの悪化から、出資先である英国の衛星通信企業ワンウェブが経営破綻に陥った。

また、シェアオフィス大手の米ウィーカンパニーも、グループの業績を悪化させた要因だ。コーポレートガバナンスやビジネスモデルへの懸念から、ウィーカンパニーの上場は延期され企業価値が下落した。

その上に、コロナショックが発生し、ウィーカンパニーの損失は拡大している。ビジョンファンドの投資状況に関して、孫氏は15社程度が倒産する可能性があると厳しい見方を示している。

揺らぐビジネスモデル、成長を急いだ代償か

現在、ソフトバンクグループのビジネスモデルは、大きく揺らいでいるとみるべきだ。同社のビジネスモデルは、孫氏の人を見抜く力(眼力)をもとに、「これは」と思える企業家を発掘して出資し、その成長を取り込むことにある。

代表的な成功例が、中国のアリババ・グループだ。孫氏はアリババ・グループの創業者であったジャック・マー氏に会って5分程度で出資を決めたといわれる。その後、アリババ・グループは世界有数のITプラットフォーマーに成長し、ソフトバンクグループの業績、資金調達、財務力などを支えている。

しかし、コロナショックの発生により、これまでの投資先の選定方法がベストではないことが明らかになった。ウィーカンパニーはその一例だ。孫氏はウィーカンパニーの共同創業者であるアダム・ニューマン氏がイノベーションを発揮できる人材であるとほれ込み、出資を決めた。

一方、ウィーカンパニーのビジネスモデルは、単なる“オフィスのサブリース”と指摘する専門家もいた。ウィーカンパニーは、シェアオフィスのアイデアや人材のマッチングを目指すアプリ開発なども進めていたが、今のところ収益は黒字になっていない。中には、「ウィーカンパニーのビジネスモデルに真新しさはない」と指摘する見方もある。

ある意味、ソフトバンクグループは成長を急ぐあまり、リスクを冷静に評価することが難しかったのかもしれない。昨年末までの過去5年間、世界的な低金利環境から株式市場に資金が流入した。企業は低金利を活用して社債を発行し、その資金を使って資本コストが上昇した自社株を買い、一株当たりの価値還元の増加に取り組んだ。

その結果、“買うから上がる、上がるから買う”という強気心理が過度に連鎖し、世界的に株価が大きく上昇した。特に、米GAFAや中国のBATH、さらにはIT関連のスタートアップ企業には、今後の経済をけん引するとの期待が集まった。その中でソフトバンクグループは、ライバルの投資会社に先を越されまいと、前のめりに投資をしたといえるかもしれない。