多めに見積もって、これまで100回以上卓を囲んだ

ここで注目したいのは、朝日の社員の存在だ。なぜ編集職場を離れた元記者が、法務・検察の中枢にいる幹部と賭け麻雀をするほど「濃い」仲を続けてきたのか。朝日によると4人は5年ほど前に黒川氏を介して付き合いが始まり、ここ3年間では、月2~3回ほど集まって麻雀をする仲だったという。多めに見積もって、これまで100回以上卓を囲んだ計算だ。

当然、社内でも黒川氏と元記者の関係は周知だったはずである。4人の関係が既に始まっていた18年11月、東京地検特捜部がカルロス・ゴーン容疑者を金融証券取引法違反容疑で逮捕した。これは朝日の特ダネで、羽田空港に着陸した、逮捕直前のゴーン容疑者が乗ったとみられるプライベートジェットの映像を配信するほどの独走ぶりだった。黒川氏は当時、法務省の事務方トップの事務次官。ゴーン事件は、検察が手がけた事件の中でも、10年に1度とも言われる大きな事件だった。

事件報道は、その反響が大きければ大きいほど、記事の最後の「裏取り」は慎重になる。元記者がゴーン事件の報道に関わっていたかは定かではないが、麻雀をやりながらとはいえ、法務省の最高幹部が口にする言葉は、たとえ感触程度のものであっても、各社が喉から手が出るほどほしい情報だ。

OB記者の、絶望的な面倒くささ

元記者のように担当を離れた後も、捜査幹部とのつながりを持ち続け、事件報道の大事な局面で情報をつかんできたり、頼られたりする担当OB記者は各社に存在する。そうした記者らは時に、現役の担当記者から見れば、目の上のたんこぶ的存在にも映る。全国紙で捜査当局を担当する記者は「昔担当だった記者が聞いてきた話が突然トップダウンで流れてきて、現場で裏取りに走り回されるのはよくあること。デマだった時でも、上司のデスクはOBのつかんだ情報の方を信頼しているので、中々聞く耳を持たない」と複雑な胸の内を明かす。

こうした有力なネタ元を持つOB記者は、社内でも出世コースに乗っていることが多い。大きなニュースになるほど、大手メディアは社内の多くの記者を取材に投入する。そうした中で、信頼の置ける情報源、言い換えれば、政府や検察など権力機関の中枢情報にアクセスできる人間が、それぞれの会社で重宝され、編集幹部に上り詰めていくのは、現在の報道機関が抱える半ば宿命的な構図だ。安倍晋三首相と昵懇とされるNHKの岩田明子記者はその最たる例だろう。畢竟、若手記者たちもその背中を追い「いつかあの人のように」と権力の懐に飛び込んでいく。