かつての米ソ冷戦とは決定的に異なる理由

中国は米国企業をはじめ外資を誘致して雇用を創出し、先進国の技術力も吸収してきた。米連邦捜査局(FBI)が中国がサイバー攻撃を仕掛けワクチン開発などの知的財産の窃取を試みていると警告したことは、中国にとって米国の生産要素が重要であることを示唆する。また、中国は米国の研究者らに多額の支援を提供し、IT、医療などの分野で最先端の研究成果を取り込もうとしてきた。

米国にとっても、国家主導でITなど先端分野の革新を進める中国の力は重要だ。中国では、土地の所有権が国に帰属し、国有企業などの土地利用にかかるコストは米国などに比べて圧倒的に低いといわれる。

さらに、中国政府は企業に補助金を支給している。中国企業は土地、建屋の取得、建設にかかるコストを抑え、先端分野の研究開発に莫大な資源を投じることができる。それが、BATHをはじめ中国のIT先端分野での覇権強化を支えている。

米国企業にとって、国家主導で急速かつ大規模に技術革新を遂げる中国企業は競争上の脅威であるとともに、成長のために欠かせない存在でもある。4月、5G通信の普及などを念頭に米クアルコムが中国のパネル大手BOE(京東方科技集団)と提携したのはそのよい例だ。

米国人の3分の2が「中国に否定的」

政治面に目を移すと、米国の対中強硬姿勢が鮮明化している。米国では、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世論が中国への批判を強めている。4月21日にピューリサーチセンターが発表した世論調査によると、回答者の66%が中国に否定的な考えを持っていると答えた。これは同センターが2005年に調査をはじめて以来最も高い水準となった。

トランプ大統領は、対中批判を強めて有権者の支持を増やしたい。それは、民主党の大統領候補者争いの中で「中国は競争相手ではない」と発言したジョー・バイデン前副大統領との違いを明確にするためにも重要だ。

また、コロナショックによって米国経済は大恐慌以来の危機到来の瀬戸際にある。新型コロナウイルスの感染拡大を受け世界的に貿易取引も減少している。トランプ氏や共和党が経済運営で成果を有権者に示すことは難しく、対中批判の重要性は増している。

一方、中国の習近平国家主席は、米国からの圧力や批判を黙ってみているわけにはいかない。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中国国内では共産党指導部に対する不信感や批判が高まっている。

習氏が米国に対して弱腰と受け止められるようなことがあれば、同氏の求心力は一段と低下し、社会心理が追加的に不安定化するだろう。米国からの圧力に対し、中国はハードライン(強硬路線)をとらざるを得ない。同時に、中国はWHO(世界保健機関)をはじめとする国際機関への資金提供などを通して影響力を高め、国際社会における発言力を強めたい。

当面、米中の対立は一段と激化に向かうだろう。ただ、相互の経済依存度が高まってきたため、全面衝突は避けなければならない。2018年3月以降の米中通商摩擦を振り返ると、対立の激化を受けて両国は徐々に手打ちをめざし、部分的な合意を形成しようと動いた。

摩擦が激化し、その後しばらくすると米中が部分合意に至り“休戦協定”が結ばれる展開が繰り返される可能性は高まっている。