母乳育児もアトピー発症を減らす効果は乏しい

「母乳育児ならアレルギーになりにくい」という説もありますが、本当でしょうか。

最近、ベラルーシの健康な乳児1万7046人に対して、母乳栄養を推進するグループ、今まで通りにケアするグループに分かれてもらい、16歳までみていっても、前者のアトピー性皮膚炎が少なくなることはなかったと報告されています(※6)

もちろん、完全母乳栄養は乳児期の死亡率を減らすという報告もありますし(※7)、母乳栄養を否定するものではありませんが、少なくともアトピー性皮膚炎の発症を減らす効果は乏しいことがわかってきたのです。

ましてや「2歳まで母乳だけで育てるとアレルギーを予防できる」といった説には根拠がありません。子どもは生後5~6カ月を過ぎると、母乳だけでは栄養が不足しますから、離乳食を開始することをおすすめします。もちろん、きちんと食事を摂ったうえで母乳を続けるのはかまいません。子どもが望むだけ与えても大丈夫です。

そして、「離乳食の開始を遅らせるとアレルギーを予防することができる」という説も、いまだに耳にします。しかし、最近の報告では、卵やピーナッツの開始を遅らせると、かえって食物アレルギーの発症が多くなることがわかってきました(※8)。そのため、2019年に改訂された「授乳・離乳の支援ガイド」では、卵黄は生後5~6カ月から開始するよう明記されています(※9)

保湿剤をしっかり塗ることが、予防になる

ここまでを読んで、「母の除去食、環境整備も母乳栄養も効果が薄い。じゃあ、遺伝が強いと、どうしようもないんだ」と思われたかもしれません。でも、そんなことはありません。

堀向健太(文)青鹿ユウ(マンガ)『子どものアトピー性皮膚炎のケア』(内外出版社)
堀向健太(文)青鹿ユウ(マンガ)『子どものアトピー性皮膚炎のケア』(内外出版社)

2014年、私が参加した次の報告が発表されました。日本で生まれた赤ちゃんに、新生児期から保湿剤をしっかり塗るとアトピー性皮膚炎の発症が少なくなることがわかったのです(※10)。しかも、その効果は「乾燥しやすい体質」があるほうがより高いという結果でした。遺伝的な素因があるほうが、保湿剤によるアトピー性皮膚炎の発症予防効果を強く感じることができるということですね。

一方、2020年に海外の大規模な研究が発表され、保湿剤によるアトピー性皮膚炎の予防効果は明らかにできなかったという結果でした。しかし、保湿剤の塗布が1日1回であったり、保湿成分が含まれていない保湿剤が使用されていたり、入浴剤で代用していたり、本当に保湿剤を塗っていたかどうかのデータが不十分だったりしました(※11、12)

今後、保湿成分を含む保湿剤を1日2回きちんと塗ることでアトピー性皮膚炎が予防できるかどうかの大規模な研究結果が発表される予定です。私は、今までの経験から保湿剤塗布での予防効果は期待できると考えています。

<参考文献一覧>
※1 Evid Based Child Health 2014; 9:447-83.[PMID: 25404609]
※2 Expert Rev Clin Immunol 2017; 13:15-26.[PMID:27417220]
※3 Lancet 1996; 347:15-8.[PMID:8531541]
※4 Pediatr Allergy Immunol 2015; 26:646-54.[PMID:26235650]
※5 Pediatr Allergy Immunol 2017; 28:144-51.[PMID:27801949]
※6 JAMA Pediatri 2018; 172:e174064.[PMID:29131887]
※7 Acta Paediatr 2015; 104:3-13.[PMID:26249674]
※8 J Pediatr 2017; 184:13-8.[PMID:28410085]
※9 「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」(2020/2/20アクセス)
※10 J Allergy Clin Immunol 2014; 134:824-30.[PMID:25282564]
※11 Lancet 2020. [Epub ahead of print][PMID: 32087126]
※12 Lancet 2020. [Epub ahead of print][PMID: 32087121]

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