この動画を紹介した女性ニュースキャスターによると、男性客は「おまえは一生メシの配達しかできねえんだ!」などの罵声も浴びせていたという。ネット上には「かわいそう、抱きしめてあげたい」「ひょっとしたら、男性客は友人たちを招いてみんなで食事しようとしていたのに、デリバリーが遅れてみんな帰ってしまってメンツが丸つぶれになったのかもしれない」などの声もあったという。

中国のインターネット調査会社Trustdataによると、19年の中国のデリバリー産業の取引量は6035億元(約9兆6560億円)に達しており、前年より30.8%増加。また、配達員の人数は、デリバリーのサービスの二大巨頭である「美団(メイトゥアン)」は270万人、「餓了麼(ウーラマ)」は300万人の登録があるとされ、500万人前後が働いていると見られている。

警察に払う罰金より、配達遅延の罰金のほうが高い

美団はイエロー、餓了麼はブルーが企業カラーとなっていて、中国の都市部ではこの2色の色のバイクが常に道路上を行き交っている。スマホアプリで注文するのだが、非常に使い勝手がよく、割引キャンペーンも頻繁に行われおり、人気が高い。

市場の拡大とともにデリバリースタッフによる事故が頻発しており、中国ではすでに一種の社会問題となっている。浙江省杭州市の地元メディア杭州日報はデリバリースタッフたちを取材。彼らは交通違反を繰り返す理由について、こう答えている。

「お客さんは注文したらすぐに届けてほしいと思っているので、遅れると罵声を浴びせられたり、にらみつけられたりする。会社からも規定時間内に届けるよう指示されていて、遅れると厳しく処分されるんです」

ニュース映像では、警察官が困惑した様子で背景を説明していた。

「デリバリースタッフたちは、命がけで配達しているというのが実情です。交通違反をして警察に支払う罰金よりも、配達が遅れて会社に支払う罰金のほうが高い。違反をしてでも速く届けようという考えになるのです」

飲酒で無免許。配達員が業務中に死亡する

結果、スタッフたちは猛烈に急いで配達をこなすことになる。私(筆者)も中国でフードデリバリーを注文したことがあるが、ドアを開けるとスタッフはほぼ無言でビニール袋を手渡してきて、受け取るとせわしなく去って行った。

後日、スタッフに連絡を取って話を聞くと、「規定時間を1秒でも過ぎるとタイムオーバーと見なされる。12分以上の遅れで30元(約480円)、苦情が入ったら200元(約3200円)が給料から引かれてしまいます」と教えてくれた。ピーク時には、6分に1件という凄まじいハイペースで注文をこなしているという(詳細は拙著『ルポ デジタルチャイナ体験記』に記載)。

デリバリースタッフの交通事故は日々伝えられており、江蘇省の地元紙・楊子晩報には、こんなニュースがあった。

「餓了麼のドライバーが3月31日11時ごろ、赤信号を突破したためその場にいた警察から大声で注意を受けたが、無視して逃走。警察はバイクで追跡し、ドライバーは車両ごと倒れ込んで逮捕された」
「餓了麼のドライバーが3月20日21時ごろ、配達中に運転を誤り転倒。ヘルメットをかぶっておらず、意識不明となった。体内からはアルコールが検出されたほか、無免許運転だったことがわかった」