「決断の速さ」と「金払いの良さ」で信頼をつかみとる
1500万円は、今の貨幣価値では3億円ほどになるでしょうか。もしかすると、もっと高額かもしれません。その金額を、私が値切りもせず、言い値で買うといったことで中村さんは驚いたそうです。
もちろん、私にしても興奮しています。そのような高い買い物は生まれて初めてのことでしたから。
それから3日間は、興奮のために夜も眠れない日が続きました。
ただ、この一等地に立つ銭湯を、値切りもせずに即決で購入したということは、すぐに広島の商売人たちの間で噂になりました。この評判は、私にとってさらなる追い風にもなってくれたのです。
決断の速さ、そして金払いのよさ、これが取引相手を信頼させ、そして安心させる秘訣です。私は、性格がせっかちなこともあり、計算せずにそうした対応をしてきました。
買い取った銭湯ですが、その後に改築を重ねて、随分と長い間、私の商売の拠点となってくれました。銭湯ですから、高い煙突が立っています。ここに大きく「洋品卸 山西商店」と書き込み、広告塔としました。周りに高層の建物がなかった時代には、広島駅からはもちろん、かなり遠くからでもこの塔が見えたものです。
ここを足掛かりに社業は順調に発展を続け、その後、新たに自前ブランドの衣料品製造事業、そして当時はまだ普及していなかったセルフサービス型の小売業態──スーパーマーケット事業へとコマを進めていくこととなりました。