50万円、100万円でもすぐに支払った

大阪の船場へは週に2回以上、私が自ら出向きました。品物を自分の目で確かめて仕入れたかったからです。

ちなみに、仕入れるときは必ず現金決済です。手形は使いません。普通は品物が着いてからの支払いですから、手形を切るわけです。しかし、私は現金決済にこだわりました。仕入れのためにトランクいっぱいの現金を持ち歩いていました。このお金の持ち運びが面倒になったので、後には小切手を使うことを覚えて小切手の決済に変えました。

とにかく素早く小切手を切りたかったので、ズボンの左の尻ポケットに小切手帳を、右ポケットには印鑑を紐で括りつけてねじ込み、話がまとまれば

「いくら?」

とその場で小切手を切る。

50万円、100万円という額でも、ためらわずすぐに決済しました。そんなことをする人はいなかったので、大阪ですっかり評判になりました。これがその後の信用づくりに大きく貢献することになったのです。

「価格交渉」の慣例をなくして信頼を構築

もう一つ、私が古い商習慣を疑問に感じて、実践したことがあります。それが正札商売です。

かつての卸問屋は、顧客と一対一で商売の話をし、価格を決めたものです。店先に品物はなく、話をしながら奥から出してきます。そして、価格交渉が始まるわけです。このやり方ですと、ある人には100円で売り、別の人には120円で売ることもあり得ました。もし、120円で買った人が、100円で売られていたことを知ると、そうした慣例だと分かっていても、あまりいい気持ちがしなかったでしょう。

これでは、末長く取引を続けてもらえないのではないか、そんな気がしていたのです。逆の立場ならどうだろうと考えました。交渉によって自分より安く購入した人がいるということは、自分との付き合いを軽んじられたと感じるのではないか。そうなると、いずれ顧客も離れていってしまうでしょう。

そこで、品物には正札を付け、その価格で販売することを始めました。品物も店先に陳列します。これは誰にでも同じ価格で販売しますよ、という意思表示でもありました。

これもまた信頼の向上につながったのではないかと思っています。

常に商売の原点に戻って、何が望まれているのか、何が必要とされているのかを考えつづけていました。世の中の変化を読み取り素早く対応していかなければ、取り残されていくことは明らかだったからです。