戦争をテーマに人間の本質を抉った出色の作品群
「現代社会の歪み」を最も典型的な事件でとらえた栗原彬編『証言水俣病』と石牟礼道子さんの『苦海浄土』は手にとっていただきたい作品です。
公害や薬害、事故に遭うと、ときに人の命や人生は想像を絶する悲惨な状況に追い込まれてしまいます。水俣病患者へのインタビュー集である『証言水俣病』では、彼らがいかなる差別と偏見の中で苦しめられ、どれだけの悲惨な死を遂げたかが語られています。
この水俣病問題をより文学的に、深い人間描写によって表現したのが『苦海浄土』でした。私自身、事故、災害、公害、薬害といったテーマに長年取り組む中で、膨大な記録を読んできました。この二作品には、戦後日本が抱えた社会的矛盾や経済優先主義の歪みの「原点」が示されていると思います。