念願のファッション業界へ! ハードながら充実した日々

やがてサザビーに入社して9年目のこと。バッグのMDも4年目になる頃、沓間さんはふと立ち止まる。「そういえば、私は洋服をやりたかったんだ……」と。さっそく転職活動を始めた矢先、思いがけない誘いを受けた。

当時、信頼する上司が「ESTNATION」へ参画。それはサザビーリーグの新事業として立ち上げられた組織で、その上司に声をかけられたのだ。沓間さんは30歳にして、念願のアパレルの世界へ飛び込んだ。

「やっぱり楽しかったですね。私はアクセサリーなど服飾雑貨のバイヤーとして入ったので、商品の買い付けがメインの仕事。海外出張が多く、次のシーズンのものを半年先に見られるのは幸せでした」

毎年、ロンドンから始まり、ニューヨーク、ミラノ、パリ、東京でコレクションが開催される。ファッション・ウィークに合わせてセールスの展示会が行われ、バイヤーは仕入れたい商品を選んで、買い付けてくる。華やかに見えても体力的にはハードな仕事だが、毎日が充実していた。

スタッフが仕事のストレスで体調を崩し退職

一方、社内でも管理職になり、チームで働く楽しさを感じていた。前職では先輩とコミュニケーションを取り辛かったこともあり、チームではなるべく部下と話そうと努めていたが、人数が増えるほどに時間を取れなくなっていく。そんな中で苦い出来事があった。

エストネーションの10周年に向けて、新規のプロジェクトが始動。六本木ヒルズ店がリニューアルオープンするにあたり、食器や食品など新しいカテゴリーの商品を増やすことになった。

沓間さんはバイヤー経験の長いスタッフに担当を任せ、自分もサポートして一緒にやっているつもりだった。だが、新規のプロジェクトだけに重圧がかかり、その女性は仕事のストレスで体調を崩してしまう。本人が話してくれたのはもう限界のタイミングで、「病院へ行ってみようと思うんです」と辛そうに言われる。そのときのショックは大きかったと、沓間さんは振り返る。

「元気がないとは感じていたけれど、そこまで追い込まれていることをわかってあげられなかった。何でもっと早く気づいてあげられなかったのか、そうなる前に何の相談もされなかったこともマネージャーとしては失格だと、自分を責めるばかりでした」

そのスタッフは半年後に退職。沓間さんは今でも悔いがあり、残念でならないと洩らす。

この苦い経験を経て、スタッフ全員と話すことをいっそう心がけるようになった。それは自分自身の働き方を見直すなかでも大切なことだったという。