「自分が頑張ればなんでもできる」わけじゃないと知った育休明け

「自分一人でできることは、ものすごく少ないんだなと気づかされたんです」

かつては明け方まで働くことも苦にならず、自分が頑張れば何でもできると思っていた。その自信が大きく揺らいだのは、子どもを持つ身になってからだ。

30代半ばに1人目を出産、その後、双子を授かって、3人の娘を持つ母になった。子育てと仕事を両立するためには一人で抱え込まず、チームのスタッフに任せることを前提に仕事をするようになる。そのためには自分も必要なことはきちんと報告し、積極的に相談するようにしてきた。

チームで良いものを生み出すために、しっかり意見交換できる場づくりを

「そもそも私は声が大きいんですよ(笑)。だから、誰かに『こういう風にしたいんだけど、どうかな?』と相談していると、それを耳にした人たちも会話に入りやすくなる。逆に厳しい意見もズバズバ言うようにしています。ストレートに言わないと本人はわからないし、私が口火を切ると、みんなも意見を言いやすいんですね」

長年一緒に働いてきた職場のスタッフと撮影した一枚
長年一緒に働いてきた職場のスタッフと撮影した一枚(写真提供=サザビーリーグ エストネーションカンパニー)

何か提案を受けるときも、良いと思ったらきちんと褒め、何を言いたいのか伝わらなければ、「わからない」とはっきり意志表示する。その場ですぐ判断していかないと物事が進まないことも、沓間さんは身に染みて経験してきたからだ。

「この仕事は結果が明確に出るので、売れるもの、売れないもの、残すもの、を見極めなければならない。そのうえで『じゃあ、何で売れなかったのか』『次はどうしたらいいのか』と一緒に話し合っていく。しっかり意見交換できる場じゃないと、良いものは生み出せないと思うんですね」

今のチームでは18人のスタッフを抱え、安心して任せられる人材が育っている。沓間さんは現場へ出る機会も減ったが、スタッフとの会話から得られる刺激は多いという。

「うちの会社は本当にESTNATIONのお店が大好きな人たちが集まっているので、皆で話しているとすごく盛りあがるんです!」

その輪の中で誰より熱く、明るい笑いもふりまいているのは、きっと沓間さんなのではと思う。

歌代 幸子(うたしろ・ゆきこ)
ノンフィクションライター

1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。