ノータイの三つ揃いで打ち合わせにやってきた

いくら説得しても、まったく聞き入れてくれない。彼にしてみれば、早見刑事は彼自身なのだ。ショーケンはあくまでも、こうこだわる。

岡田晋吉『ショーケンと優作、そして裕次郎 「太陽にほえろ!」レジェンドの素顔』(KADOKAWA)
岡田晋吉『ショーケンと優作、そして裕次郎 「太陽にほえろ!」レジェンドの素顔』(KADOKAWA)

「俺は歌手だから、役に化けることはできない。俺自身でやりたい。俺そのものじゃなきゃ嫌なんだ!」

こういう考え方をする俳優など、前代未聞であった。それまで10年以上ドラマを作ってきて、こちらから持っていった企画に「嫌だ」という俳優など一人もいなかった。萩原健一だけだ。これは大変なことになるぞ、と思う一方で、これは面白いかもしれない、とも感じていた。

それでも出演を降りるまでにはいたらず、ショーケンは衣装合わせにやって来た。その時の格好が際立っていた。ノーネクタイで、三つぞろいの背広。

私たちから見ると、まるでマカロニウエスタンに出てくるような恰好だった。よし「マカロニ」でいこう、と決めた。ショーケンも渋々だが、了解してくれた。なにしろ、クランクインが間近に迫っていたからだ。この衣装は、彼が前出の自著で「ブティック『ベビードール』でつくったスリーピース」と言っている。自分で決めた、とも。

一時期は「ショーケン」も嫌がっていた

それにしても、あだ名というのは難しいものだ。

私たちはみんな最初から、彼のことを「ショーケン」と呼んでいた。それがニックネームだと思っていたから、疑いもなくそう呼んでいた。彼も、別に嫌な顔はしない。なんでも、10代のころについたものらしい。

当時、彼は22歳。ニックネームの「ショーケン」に違和感はなかったのだろう。ところが、一時期、彼は「ショーケン」と呼ばれることを嫌がるようになったという。もちろん、「太陽にほえろ!」が終わって、ずっと後のことだ。

大人になったのだろう。だが、そのぶん、彼は丸くなったように思う。人間も、演技も。それが良かったのかどうか──。だが、それも含めて「萩原健一」ということだけは、確かである。