内縁の妻と戸籍上の妻との決定的違い
今回の文恵さんを例に、相続における内縁の妻と戸籍上の妻の違いを見てみましょう。
共に相手を支え合う関係として差異はありませんし、例えば社会保険の扶養などにおいて、内縁関係であっても戸籍上の夫婦と同等の扱いをする部分が増えてきました。しかし法律上は、戸籍を入れていないと「配偶者」にはなれず、つまりは相続においては「法定相続人」になれないのです。厳しい言い方をしますと、「全く無関係の人」という扱いになってしまいます。たとえ何十年連れ添っていたとしても、です。
裏を返せば、たとえ亡くなる1日前でも婚姻届を出して法律上婚姻関係が生じれば、立派に配偶者であり、法定相続人になれるのです。法律上の夫婦と内縁の夫婦との決定的な違いは、実は相続において出てくるのです。
内縁の妻には相続権はありませんから、故人が遺言書で書き残さない限り何も取得する権利はありません。一方、宇津井さんのケースのように、亡くなるほんの数時間前でも意識があって意思能力があれば、婚姻は有効です。戸籍を入れれば正式な配偶者であり、法定相続人です。
病の床にふせったら遺言書を書くべき
宇津井さんの場合で言えば、5時間前の入籍がなければ、法定相続人は隆さん一人、相続財産は全て隆さんが相続するはずでした。それが入籍によって、法定相続人は文恵さんと隆さんの二人となり、法定相続分は等しく1/2ずつになりました。
文恵さんは、相続財産である2億円と言われる豪邸をめぐって隆さんと争いました。文恵さんが自分の法定相続分1/2を主張するならば、隆さんは自分の手持ちのお金で1億円を文恵さんに支払うか、または豪邸を売却してそのお金で1億円を文恵さんに支払うこととなります。
宇津井さんは最初の奥さんを亡くした後、自宅を二世帯住宅に改築して隆さん家族と同居していました。したがって、ここで豪邸を売却すれば、隆さんは自分の住む家を失ってしまいます。(「週刊新潮」2020年1月16日掲載「宇津井健の遺産争いは決着していた! クラブママの未亡人が明かす真相」)
残された相続人にこうした混乱や苦悩を残さないためには、自分が病の床にふせったならば、遺言書を書くべきでしょう。特に後妻や内縁の妻と前妻の子は揉めやすいものです。遺言書がなければ、相続人全員で遺産の分け方を決めるべく、遺産分割協議を行うこととなります。これが、最も相続人が感情的にぶつかり合いやすい場なのです。法的に有効な遺言書があれば、この遺産分割協議をせずに済みますから、かなりのリスクが低減できるでしょう。
各人に配慮し、バランスのとれた遺言書を書いておいてあげることで、残された人々が果てしない争いへ突入することをかなり高い確率で防ぐことができるのです。